研究概要 |
多くのグラム陽性の病原細菌は、環状ペプチドを自己誘導因子(クォルモン)とするクオラムセンシング(QS)により、病原因子の発現を巧みにコントロールして、宿主への感染を効率よく成立させている。本研究では、(1)環状ペプチドクォルモンの生合成酵素、(2)環状ペプチドクォルモンの受容体、を標的としたQS阻害剤を、天然物のスクリーニングおよびペプチドデザイン合成の2つのアプローチを組み合わせた戦略で分子創製し、グラム陽性病原細菌の病原性発現を効率的に抑制する新しいタイプの抗感染症剤を創出することを目標としている。本年度の成果は、(1)リバースアラニンスキャン法という独自のペプチドアンタゴニストの分子デザイン法を編み出し、その方法により100nMで腸球菌のクオラムセンシングを遮断するGBAPアンタゴニストZBz1-YAA5911を得ることに成功した。今後本ペプチドをリード化合物としてさらなる修飾、改変によりより強力なGBAPアンタゴニストを創製することを計画している。(2)ブドウ球菌のagrクオラムセンシング系をモニターするアッセイ系および腸球菌のfsrクオラムセンシング系をモニターするアッセイ系の両者により、放線菌749株の粗抽出物のクオラムセンシング阻害効果の試験を行った。その結果、計5株の粗抽出物が有効的に両菌のクオラムセンシングを阻害することを見出した。今後、これらの抽出物中の阻害物質の精製・構造解析を進めていく予定である。(3)GBAP受容体FsrCの部位特異的改変により、シグナル伝達能を有さないFsrC(Y112A)を得た。そしてこの変異体FsrCの結晶化に成功し、3,8Aの分解能の回折像を得ることに成功した。今後は、この結晶構造よりFsrCのリガンド結合部位の精密構造情報を得、それを参考に、上記(1)のドラッグデザインを進展させて行く予定である。
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