本年度は、病原性の真菌類に広く存在する糖脂質分解酵素について大きな進展が得られた。病原性の真菌類のグルコシルセラミドは感染や細胞分裂に重要であることが知られていた。このグルコシルセラミドの合成酵素は、ヒトから真菌に至るまでその一次構造が保存されているが、真菌類のグルコシルセラミド分解酵素は未同定であった。本研究の対象である、エンドグリコセラミダーゼは放線菌から報告者らによって初めて見出された糖脂質分解酵素である。エンドグリコセラミダーゼは様々な糖脂質に作用し、糖鎖とセラミドを遊離する。しかし、グルコシルセラミドには作用しない。本研究で、エンドグリコセラミダーゼの真菌オルソログ(EGCrP)がグルコシルセラミド分解酵素であることを見出した。また、クリプトコッカスにおいては、EGCrPの2つのパラログが存在することも明らかにした。さらに、クリプトコッカスのEGCrP-1ノックアウト変異株を作製したところ、合成途上のグルコシルセラミドが蓄積することを見出した。つまり、本酵素は糖脂質合成の品質管理(Quality control)を行っていることが初めて明らかにされた。糖タンパク質の品質管理に関しては、研究が進んでいるが糖脂質の品質管理についての報告はこれが初めてである。一方、EGCrP-2のノックアウト変異株においては、グルコシルセラミド以外にも未知の糖脂質が蓄積し、細胞分裂が異常になることが分かった。次年度では、その未知の糖脂質の構造を明らかにし、EGCrP-2の生理機能を解明したい。
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