広域分布性森林性哺乳類であるエゾモモンガが北海道に特有な森林植生に対して進化生態学的にどのような適応をしているのかを解明するため、平成23年度においては以下の野外調査を実施した。加えて、広域分布性森林性哺乳類であるエゾリスの進化的歴史を把握するため、ミトコンドリアDNAのチトクロム6遺伝子塩基配列に基づきその分子系統地理学的特徴を明らかにした。 1)エゾモモンガ(タイリクモモンガ)に関しては、北海道の山間部で最も多いトドマツ優占混交林にエゾモモンガの営巣が多く見られることが前年度に示されたことから、トドマツ優占混交林を調査地に選択し、エゾモモンガの繁殖生態に関する研究を中心に野外調査を実施した。その結果、これまで主に春期と下記の回に繁殖のピークがあると考えられていた本種であるが、年に3回繁殖を行う個体も確認され、本種の繁殖は、条件によってその回数・期間などが可塑的に変化することが示唆された(現在継続研究中)。 2)エゾリス(キタリス)の分子系統地理的パターンについては、北海道内における過去の集団隔離・分断および高い頻度の変異性が見られず、氷期における集団の縮小(避難域の形成)およびその後の急激な拡張を示唆する結果が得られたものの、北海道レベルではなく、少なくともユーラシア大陸北東域全体でキタリスの分布拡張が生じたことが示唆された(投稿論文準備中)。これは、北海道集団であるエゾモモンガが明瞭に分化したタイリクモモンガの場合とは大きく異なっており、広域分布性森林性哺乳類である両種は異なった進化史を有することが示唆された。
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