研究概要 |
コナラ属樹木の種子である堅果の化学成分組成,特にタンニン含有率には,種間及び種内で大きな変異が存在する。このような多様な化学成分組成の生態学的な意義を明らかにするために,以下の研究を行った。 1.堅果の化学成分組成及び成分間の関係の解明 各種堅果の登熟段階別の採集を行い,タンニン類を中心とした化学分析を行う。今年度は,盛岡近郊で2種(コナラ,ミズナラ)及び京都近郊で7種(コナラ,ナラガシワ,アベマキ,クヌギ,アラカシ,イチイガシ,シラカシ)のサンプリングを行った。今後,部位別(子葉,外種皮,内種皮)に分析を行う。 2.堅果の化学成分組成が種子の生存に与える影響の解明 設定済みの調査区内(岩手大学滝沢演習林内,50m×50m)の対象木14本からシードトラップを用いてコナラ堅果を回収し,個々の種子のサイズ及びタンニン含有率を測定した。タンニン含有率は,近赤外分光法を用いて非破壊的に推定を行った。これらの成分既知の堅果は個別にナンバリングを行った後,母樹下に散布し,翌年に生存過程を追跡し,堅果の生存過程と化学成分との関係を明らかにする。2009年秋は調査地のコナラは豊作であり,約10000個の種子の散布を行った。 3.野ネズミ類の堅果利用状況の解明 主要な種子消費者である野ネズミ類の堅果利用状況を明らかにするために,野外でのタンニン摂取量を評価するための手法を開発した。飼育下で野ネズミ類3種にタンニン含有率の異なる飼料を供餌し,その糞中のプロリン含有率を測定した。その結果,いずれの種においても,プロリン含有率が摂取タンニン量と高い相関を持つことが明らかになった。野ネズミにとって堅果は主たるタンニンソースである。そこで,この手法を用いて野ネズミ類の堅果利用状況を推定したところ,堅果豊作年には秋や冬だけではなく,翌年の夏まで堅果を利用していることが明らかになった。
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