研究概要 |
コナラ属樹木の種子であるドングリの化学成分組成,特にタンニン含有率には,種間及び種内で大きな変異が存在する。このような多様な化学成分組成の有する生態学的な意義を明らかにするために,以下の研究を行った。 1.種子の化学成分組成及び成分間の関係の解明 東北及び近畿で種子の登熟段階別の採集を行い,盛岡近郊で2種(カシワ,ミズナラ)及び京都近郊で8種(コナラ,ナラガシワ,アベマキ,クヌギ,アラカシ,イチイガシ,シラカシ,ツクバネガシ)のサンプリングが完了し,分析を行った。ミズナラ,コナラ,ツクバネガシの種子が非常に高いタンニン含有率を示した。他方,イチイガシは非常に低い含有率であった。このことから,タンニンの含有率は分類群とは明瞭な関係を持たないことが明らかになった。また,種子形質(サイズ,タンニン含有率)について,著しい種内変異も認められた。 2.種子の化学成分組成がコナラ母樹の繁殖成功に与える影響の解明 岩手大学滝沢演習林内のコナラ二次林に50m四方の調査区を設定し,コナラ種子の回収,計測,そしてその後の種子の生存過程の追跡を行っている。本年度は,種子の化学成分組成がコナラ母樹の繁殖成功に与える影響について解析を行った。その結果,コナラ種子の形質(サイズ,タンニン含有率)の平均値だけではなく,従来は考慮されていなかった「ばらつき」の大きさ(変動係数)が繁殖成功に強く影響することが明らかになった。サイズに関してはばらつきの小さい母樹の,タンニン含有率に関してはばらつきの大きい母樹の繁殖成功が高い傾向が認められた。
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