木質バイオマスからのバイオエタノール生産に関する研究は、カーボンニュートラルで食料と競合しないという点から、世界中で精力的に研究されているものの、その副産物である残渣リグニンの利用に関しては、ほとんど研究がなされていない。研究代表者らは、これまでこの残渣リグニンの高度活用を目指し、鋭意研究を進めた結果、親水基を導入するような特別な化学反応を行わなくても、アルカリ水熱処理だけで水溶性リグニンポリマーに変換できることを見出した。この親水性ポリマーの性質を生かし、植物由来の新規環境保全物質を創製することを目的とした。 昨年度までの検討から、親水性リグニンポリマーにはカルボキシル基が導入されている構造であることが判明しており、さらに、ε-カプロラクトンとの共重合により、新規バイオポリエステルの調製にも成功した。 本年度は水溶性リグニンポリマーの構造を詳しく調べることとした。これにより、さらなる環境保全用新規ポリマーの合成につながると考えられる。残渣リグニンのモデル化合物2種類を調製し、アルカリ水熱反応を試みた。反応生成物をGC-MSにより分析したところ、水熱反応により以下の反応が起こっていることが分かった。 1.γ位水酸基がアルカリにより解離する。その後、生成した酸素アニオンがβ位炭素を攻撃することにより、β-0-4結合か解離する。 2.γ位水酸基解離の後、ホルムアルデヒドとしてγ位が脱離し、芳香核(クレゾールやクレオソールなど)が生成する。その後、脱メタノールが起こり、カテコールおよび4-メチルカテコールが生成する。また、脱メタノールはホルムアルデヒドの脱離前に起きる場合も考えられる。 モデル化合物の水熱分解反応物の中に、5%炭酸水素ナトリウムで抽出される物質が存在したことから、カルボキシル基を持つ化合物が存在していることが分かった。 このことから、分解生成物のカテコール、4-メチルカテコールはさらに酸化されて、カルボキシル基を持つ化合物になると考えられる。
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