研究概要 |
・北海道系シロザケは,60年間(1945-2005年)にわたる鱗分析と成長バックカリキュレーション結果から,1990年代以降地球温暖化のプラスの影響を受け1年目の成長量が増加し生残率が高くなり個体群サイズが著しく増加したこと,その結果,ベーリング海での限られた環境収容力により密度依存効果が顕著になったことが分かった。 ・IPCC/SRES-S1Bシナリオによる亜寒帯海域のSST予測から,このまま地球温暖化が進むとシロザケの分布域は著しく狭まり,北極海などの北方へ移動せざるを得ないこと,密度依存効果が益々顕著となるであろうことがモデル研究から明らかになった。また,衛星画像からも北極海周辺の海氷の減少が明瞭に観察され,上記の予測の妥当性が示唆された。 ・密度依存効果を個体群レベル,ANCOVEを用いてメタ個体群レベルおよび種レベルで比較検討したところ,密度依存効果は個体群レベルにおいて顕著であり,メタ個体群レベルおよび種レベルに及ぼす影響はそれほど大きくないことが示唆された。このことは,孵化場魚と野生魚との生物学的相互作用がそれほど顕著ではない可能性をも示唆している。 ・米国アラスカ州ユーコン川に遡上するシロザケのナツザケ系(8月産卵)とアキザケ系(11月産卵)を採集し,その耳石のSr/Ca比を調べた。その結果,ナツザケ系は約2,000kmを非常に早い速度で遡上し産卵するのに対し,アキザケ系は河川に遡上してから産卵までにかなりの時間を要することが分かった。このことは今後の温暖化時代におけるシロザケ,特にナツザケ系の適応課程に重要な示唆を与える。
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