研究概要 |
マングローブ林が存在する水域には多くの魚類が生息し,重要な漁場のひとつとなっていると言われている。しかし,マングローブ水域になぜ多くの魚類が生息しているのか,また,マングローブ水域が魚類の隠れ家や餌場として実際にどの程度,機能しているのかということについては,まだまったく検証されていないのが現状である。そこで本研究では,沖縄県西表島の浦内川河口域にみられるマングローブ水域において,マングローブの気根・支柱根の構造が魚類の分布パターンや被捕食死亡率に与える影響を調べる野外実験を行った。 マングローブの支柱根が稚魚や小型魚の隠れ家になっているかどうかを検証するため,支柱根に似せたスチール製パイプを垂直に立て,それらの間隔を低密度,中密度,高密度の3段階に変えることによって,魚類がどのように棲みつくかを調べた。その結果,密度の高い実験区ほど多くの魚類(アマミイシモチやスミゾメスズメダイの稚魚など)が棲みつく傾向にあることがわかった。次に,気根や支柱根がある場所(河川の岸部)とない場所(河川中央部の砂地)において,稚魚の被捕食死亡率がそれぞれの場所でどの程度,異なるかを推定するための野外実験を行った。本実験においては,3種(岸部のみに分布するアマミイシモチ,岸部と砂地の両方に分布するセダカクロサギとミナミヒメハゼ)の稚魚の体に透明なナイロン糸をつけ,糸の一端を地面に固定したあと,30分間放置し,稚魚が糸に付いていたかどうかで被捕食率を算出した。その結果,アマミイシモチの被捕食率は岸部で低かったが,他の2種では岸部と砂地で差がみられなかった。 以上の実験結果により,マングローブの気根や支柱根の複雑な立体構造は,稚魚や小型魚が生息場を選択するうえで重要であり,岸部に分布する種にとっては捕食者からの隠れ場として機能することが示唆された。
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