【アユの回遊と遡上個体群構造】三陸地域の大槌湾流入河川の鵜住居川を調査河川として耳石のSr安定同位体比から母川回帰性の有無を検討し、アユは生物特性としての母川回帰性はないものの河口域の地形や流動環境に応じて母川回帰することを明らかにした。また、東日本大震災の津波・地震の影響で早生まれ個体が消失し、遅生まれ個体が震災直後の遡上個体群を形成したことを明らかにした。この結果が三陸地域のアユ資源に及ぼす影響は大きいものと考えられる。 【ビワマスの琵琶湖内回遊と遡上個体群構造】琵琶湖流入5河川を遡上したビワマスを対象として耳石Sr:Ca比とSr安定同位体比から母川判別を行い、ビワマスの母川回帰性は弱いものの母川隣接河川を遡上する傾向が強いことを明らかした。このことはビワマスの人工種苗放流による増殖技術、種の保全を検討する上で重要な知見である。 【ウナギの産卵個体群構造と産卵回遊】平成21、22年度にマリアナ諸島西方海域で採集された親ウナギ8個体を材料として耳石のSr安定同位体比から成長場所の推定を行った。成長場所の判別のための基礎情報として中国6河川、台湾4河川、韓国5河川、日本7河川の河川水の同位体比を測定、さらに既知の7河川の同位体比も解析に用いた。その結果、8個体中3個体は日本の太平洋岸の河川河口域かで成長したことが示唆された。この成果はウナギ資源の保全に重要である。また、利根川に加入したシラスウナギの耳石中心部の酸素同位体比から受精卵の分布水温が28℃、水深150-170mであることが明らかになった。この成果は平成21、22年度のマリアナ西方海域における天然ウナギ受精卵の採集成功に大きく貢献した。 【日本産ニシンの回遊と集団構造】本州太平洋岸、北海道日本海沿岸、北海道太平洋・オホーツク海沿岸の3個体群に分けられてきた日本産ニシンについて耳石の微量元素組成から個体群構造を検討し、同一個体群においても松島湾と宮古湾、厚岸湾と風連湖の個体群は生態的に分離している可能性を指摘した。
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