研究課題/領域番号 |
21380124
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山下 洋 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 教授 (60346038)
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研究分担者 |
笠井 亮秀 京都大学, 農学研究科, 准教授 (80263127)
富永 修 福井県立大学, 生物資源学部, 教授 (90246489)
松石 隆 北海道大学, 水産科学研究科, 准教授 (60250502)
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キーワード | 稚魚 / 成育場 / 河口域 / 食物網 / 生態系モデル / 基礎生産 / 初期減耗 / アミ類 |
研究概要 |
平成23年度は、22年度に引き続き由良川下流域から丹後海にわたる水域で、目的に応じて毎週1回~毎月1回の高頻度調査を実施し、水温、塩分、栄養塩、クロロフィル、プランクトン、ベントス、魚類の時空間分布構造を詳細に調べた。とくに、丹後海における栄養塩収支を定量的に把握した。河川からのNフラックスは、夏季(8-10月)に55tN/month、河川流量の多い梅雨期(6-7月)に140tN/month、冬春季(2-4月)に186tN/monthと推定された。エスチュアリー循環は流量の多い冬春季に強化され、外海から高い栄養塩濃度の海水が供給されることにより、Nフラックスは夏季・梅雨期の10倍に達した。沿岸域の植物プランクトンは、栄養塩流入フラックスが増加する冬春季にブルームを形成した。魚類稚魚の主要餌料であるニホンハマアミは、この植物プランクトンブルームに対応した2-5月に高密度に分布し6月に急激に減少した。飼育実験により、水温、成長、死亡率の関係を調べた。その結果を用いてフィールドにおいて推定された日間生産量は、高密度期には3-9mg DW m-2、6月の減少期以降は1mg DW m-2以下となった。年間生産量/現存量比(Pyear/B)は約15.1と推定され,アミ類のPyear/Bとしては比較的高かった.丹後海に出現するヒラメ稚魚には、西方で産卵され3-5月に着底する来遊群と、丹後海内で産卵され5-7月に着底する土着群のあることが分かった。来遊群は主食であるアミ類が豊富な時期に成育場に加入するが、土着群はアミ類の減少期に加入することから、前者の方が摂餌状態や成長は良好であった。これまでに得られた詳細な調査データをデルフト3Dモデルに組み込み、河口域における栄養塩供給から基礎生産までの過程を再現できるモデルを完成した。平成24年度は、エコパスモデルとの融合により基礎生産から仔稚魚の生産に至る総合的な生態系モデルの構築を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、若狭湾西部の由良川河口域を研究フィールドとし、アミ類や魚類稚魚に至る食物構造の解明を通して、稚魚の生産に焦点を当てた生態系モデルを構築し、河口域の保全・管理方策を検討することを目的としている。これまでの研究により、モデル化に必要な河口域の物理構造の把握、栄養塩の供給特性、基礎生産とそれを利用するアミ類の生産力、アミ類を主食とするヒラメ・スズキ稚魚の成長・生残について定量的に把握した。また、モデルとして使用するデルフト3Dおよびエコパスの基本構造をすでに完成した。24年度に残された課題は、これらのデータを用いて、精度の高い数値モデルを作成すること、および得られた全てのデータをもとに、保全・管理方策を検討することである。
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今後の研究の推進方策 |
数値モデル化に必要な河口域の物理環境および栄養塩の周年変化、それらに応答する主要な生物種の生態情報については、かなり定量的に収集・把握できた。物理環境から基礎生産までのモデル化についてはデルフト3Dを用いるが、極めて再現性高く基礎生産までの現象を再現できるモデルがすでにできあがった。エコパスについても、基本的な構造を構築することに成功している。エコパスについては、鍵となる動物群のパラメータはかなり把握できているが、群集としてみた場合には、食性、成長速度、生残率などが不明の生物種も多く、それらについては文献値を使用せざる得ない。また、デルフト3Dとエコパスの融合方法の検討が、今年度の最も重要な課題である。
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