湿地帯におけるセルロース分解の生化学機構を明らかにする目的で、我国の亜熱帯域に発達するマングローブ林域における分解機構を調べた。採泥は沖縄本島、石垣島及び西表島の12湿地帯(マングローブ湿地9地点、前浜干潟2地点、淡水湖沼1地点)で行い、マングローブ湿地帯として慶佐次川河口、漫湖、名蔵湾、宮良川河口、浦内川河口、マーレ川及びヒナイ川河口、後良川河口、前良川河口を、前浜干潟として羽地内海、高那干潟を、淡水湖沼としては大正池をサンプリング地に選んだ。 12湿地帯のうち最大のセルラーゼ活性を示したマーレ川にはキバウミニナが群生していて、キバウミニナの糞と思われる緑色の塊が土壌中に散在していた。このことよりキバウミニナの糞が土壌のセルロース分解能の大きさに少なからず寄与している可能性が示唆された。この可能性を検証する為に行ったザイモグラフィー分析によるキバウミニナ中腸腺抽出液とキバウミニナの糞の比較では、両サンプルが比較的似たバンドパターンを示した。また、49 kDaのバンドは底泥及び底泥中のマングローブ木片、キバウミニナ及びその糞のいずれからも検出された。このことよりキバウミニナの糞に由来するセルラーゼが土壌のセルロース分解に寄与している可能性がより深まった。キバウミニナの糞から検出されたが中腸腺抽出液からは検出されなかった83 kDaのバンドは、キバウミニナの糞中に含まれる未分解のセルロース残渣を食物源とする微生物由来のセルラーゼの可能性があり、キバウミニナは自身でセルロースを分解するだけでなく、微生物によるセルロース分解の仲介者である可能性も示唆された。
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