研究概要 |
硝酸イオン濃度分布図を作成し、葉面内で濃度の高低を同定した後、RT-PCR法でNR遺伝子の発現量を測定することにより硝酸イオン濃度とNR遺伝子の発現量との相関を検証することを目的としている。 供試作物にはコマツナ(はかたコマツナ,Brassca rapa, var. peruviridis)を使用した。栽培は温室内で水耕装置を用いて栽培した。スペクトルの測定にはハイパースペクトルカメラ(デルフトハイテソク社製V10,測定波長領域は400nmから1000nm、波長分解能が9nm)を用いた。レンズは単焦点レンズ(COSMICAR製、焦点距離8mm、f値1.4)を使用した。ハイパースペクトルイメージングシステムは、ハイパースペクトルカメラと光源装置(Newport Stratford 社製、Oriel 66499、250 W QTH lamp 6334)、単軸ロボット(T4、ヤマハ発動機社製)で構成した。検量線作成のために葉から小面積の葉片サンプルを切り出し、ハイパースペクトルカメラで撮影し、各葉片サンプル全画素の平均吸光スペクトルを取得した。イオン分析器(東亜DKK(株)製IA-300)によって撮影後の葉片サンプル硝酸イオン濃度を測定した。検量線作成に使用したサンプルは中肋245サンプル、葉身214サンプルの計459サンプルで、測定サンプルの硝酸イオン濃度レンジは40ppmから16413ppmであった。解析方法はPCR法及びPLS法で行い、スペクトルの前処理は中心化と標準化のどちらかを採用した。また中肋と葉身は区別して検量線作成を行った。その結果中肋と葉身共に評価データの実測値と推定値との相関係数が0.91以上となった。葉内で硝酸イオン高濃度部と低濃度部を作り出すためにパルスチェイス法を用いた。まず作物の根を4日間水に浸し、植物体内の硝酸イオン濃度を低下させた(低下実験)。この時点で葉面の硝酸濃度分布図を作成した。次に葉単位に茎で切り分け、その切り口を養液に1時間浸し、葉内で硝酸イオンを拡散させた(上昇実験)。この時点で再度葉面分布図を作成し、この分布図から硝酸高濃度部と低濃度部を特定し、実際に葉面から各部位のサンプルを採取してNR遺伝子の発現量を測定した。NR遺伝子発現量はNRmRNAの発現量として計測した。RT-PCR法およびアガロースゲル電気泳動装置によりNRmRNA発現量を数値化した。 5枚の葉について低下実験後と上昇実験後の硝酸濃度分布図を作成し、葉面内2カ所(高濃度部と低濃度部)の硝酸濃度の変化を測定した。上昇実験後に該当2カ所のNRmRNA発現量を測定したところ、硝酸濃度上昇量が大きなサンプルのNRmRNAの発現量が大きくなる傾向が認められた。また、硝酸濃度とNRmRNA発現量の間に明確な相関は見られなかった。このことから硝酸濃度の上昇量はNR遺伝子の発現を誘導する要因の一つとして考えられることがわかった。
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