反芻家畜におけるプロラクチン(PRL)分泌機構へのサルソリノール(SAL)の関与を明らかにするために、次ぎの二つの実験を行った。(実験1):前年度の実験から雌ヤギにおいて人工的に日長を変化させるとSALによるPRL分泌反応が変化することが分かったので、この実験系を用いてさらに日長変化とSALによるPRL分泌調節との関係を調べた。(実験2):視床下部内でのドーパミン(DA)とSALの関係を明らかにするために、血液脳関門を通過でき視床下部内においてDAに変換されるDAの前駆物質(L-DOPA)を雄ヤギに投与し、SALによるPRL放出反応の変化を調べた。 (実験1):長日(16時間明:8時間暗)及び短日(8時間明:16時間暗)条件下でそれぞれ飼養した雌ヤギの頚静脈内にSAL、DAアンタゴニスト(スルピリド)、TRHを投与し、血中PRL濃度の変化を調べた。長日条件下でのSAL、TRH及びスルピリドのPRL放出反応は短日条件下における反応に比べ高かった。長日条件下ではSAL、TRH及びスルピリドによるPRL放出反応には差は見られなかったが、短日条件下ではTRHの反応が最も低かった。またTRHによるTSH放出反応にはPRL放出反応のような日長に伴う変化は見られなかった。これらの結果からSALによるPRL放出反応はTRHやスルピリドと同様に日長が延長すると高まること、また日長の影響はTRHによるTSH放出反応には見られないことが明らかとなった。またメラトニン処置した予備実験ではSALによるPRL放出反応は抑制されることが示唆された。(実験2):成熟雄ヤギ及び雄子ヤギの頚静脈内にSALを単独あるいはL-DOPAと同時投与し、経時的に採血を行った。成熟雄ヤギは夏季、雄子ヤギは秋季に実験を行った。SALを静脈内に投与すると、成熟雄ヤギ及び雄子ヤギとも血中PRL濃度は急激に増加した。L-DOPA投与によりSALのPRL分泌反応は抑制された。これらの結果から、成熟雄ヤギ及び雄子ヤギにおいて視床下部内のDA含量が増えるとSALによるPRL分泌反応が抑制されることが示唆された。また視床下部内でのDAとSALの関係を調べるのに、本実験系を応用できることが示唆された。
|