本研究は、電気化学イメージング技術を応用した超高感度細胞呼吸測定システムを開発し、超未成熟卵子から着床胚に至る一連の生殖プロセスにおけるミトコンドリア呼吸機能の解析を目的としている。本年度は、超高感度マイクロ電極や非侵襲測定液等の要素技術をシステム化した走査型電気化学顕微鏡を用いた単一卵子呼吸計測システムを構築するとともに、単一卵子の呼吸能解析における有効性の検証を行った。その結果、以下の研究成果が得られた。 (1)超高感度マイクロ電極の開発:高感度ディスク型マイクロ電極を安定的に作製するためにガラスキャピラリー先端径と耐久性の関係と熱封止法を検討した結果、単一卵子の呼吸計測を可能とする先端径2~5μmの高感度ディスク型マイクロ電極を安定的に作製できる技術を構築することができた。 (2)非侵襲・高感度計測を可能とする測定液の開発:マウスやヒトの胚の培養に用いられるHuman tubal fluid(HTF)培地の組成が最も安定して呼吸量を測定できたことから、HTF培地を基本とする呼吸測定液を製作した。(1)で開発したマイクロ電極と呼吸測定液を用いてウシ及びマウス胚の呼吸量を測定した結果、単一胚の呼吸量を高感度・非侵襲的に測定することができた。この測定は、極めて再現性の高いものであった。 (3)単一卵子呼吸計測システムの開発:ウシ及びマウスの卵子の呼吸量を測定した結果、卵子の体外成熟と胚の発生過程における呼吸量変化を測定することに成功した。また、呼吸量変化とミトコンドリアの細胞内移動や膜電位変化が密接に関連していることを明らかにするとともに、胚発生過程における呼吸鎖複合体(Cox)遺伝子の発現を解析した。
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