研究概要 |
本年度は,前年度より継続して3つの研究計画を並行して実施し,以下のような成果を得た。 1)オーストラリア探知犬の研究:第2群の遺伝子解析をスタートしたものの,震災の影響もあって未解析の部分もあるが,論文作成を開始した。遺伝子解析は現在も継続している。 2)日本盲導犬協会における研究:平成21年度に明らかとなった盲導犬適性と関わる"注意散漫"という気質スコアをより客観的に評価するため,本気質と関連する生理学的指標や行動学的指標を探索することとした。具体的には,訓練開始1ヶ月目と2ヶ月目に心拍計を装着しながら行動実験を実施した。その結果,"注意散漫"の低い群では,実験者が入室した際に「実験者を注視する」行動が有意に多く,実験者入出後2.5分間における△心拍数が大きいまま推移した。これらの結果より,盲導犬として適格と考えられる"注意散漫"スコアの低い個体は,本行動実験の際に入室してくる実験者に対しても集中していることが示唆されたが,今後追試をして実験結果を確認する予定である。 3)「常同障害(尾追い行動)」の研究:昨年度よりスタートさせた研究が,EUの主催するLUPAプロジェクトの一環として採択され,ゲノムワイドの解析が可能となったことから,4-5月と11-12月の2回に渡って一般動物病院に依頼し,柴犬の採血とアンケートを実施し,症例群・対照群各150頭分のサンプルを収集した。血液サンプルは,DNAを抽出してベルギーへと輸送し,現在解析中である。また,アンケート結果より,尾追い行動と"好奇心","接触過敏性","小動物に対する反応性","音や動きに対する反応性"といった気質が関連すること,尾追い行動は"飼い主に対する攻撃性"とも関連が認められるがその際には気質が交絡因子として関与していることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点までは基本的に順調に進展しているが,オーストラリア税関探知犬繁殖育成部門およびビクトリア州盲導犬協会における担当者が交代したために連絡がつきにくくなっており,今後の大規模応用研究に支障のでる恐れが生じた。そのため,下記に記述した理由も加えて今後は大規模応用研究を中止し,オーストラリア関連の研究については,これまでの成果をもって論文を作成することとした。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題により明らかとなった盲導犬の"注意散漫"気質について,関連する遺伝子多型を探索するために本研究経費により12頭のゲノムワイド解析を試みたが,例数が十分ではないために,明らかな結果を得ることができなかった。サンプルは既に揃っているものの,本研究経費のみでこれ以上のゲノムワイド解析をすることは不可能であるため,科学研究費補助金における研究計画最終年度前年度の応募を行った。ゲノムワイド解析結果を待たずに海外との共同研究を継続することは危険であるため,本研究課題では,大規模応用研究を中止し,候補遺伝子解析を使った研究を継続する予定である。ゲノムワイド解析については,本研究課題の「犬を研究モデルとして,気質の遺伝学的背景を解き明かすこと」を目的として,興奮性や執着心といった気質と関連すると考えられる「常同障害(尾追い行動)」を取り上げて平成22年度より研究を開始し,一定の成果を得ている。
|