乳腺間質脂肪細胞による乳腺の発達調節機構の解明のため、食餌性肥満(HFD)マウスと対照(ND)マウスという脂肪細胞の状態が大きく異なる2群のマウスを用い、それらの乳腺発達過程を詳細に検討した。未妊娠の乳腺では、両群とも複数の枝分かれをもつ導管が乳腺間質である皮下脂肪組織全体に広がっていたが、HFD群では皮下脂肪組織の拡大にともなって導管を伸長し、ND群に比べ分枝頻度が低下した粗な導管形態を示した。また、ND群の乳腺導管は管腔上皮細胞と筋上皮細胞の二層の上皮細胞層からなるのに対し、HFD群の乳腺導管は筋上皮細胞層が不完全であり、部分的に欠損していた。さらに、乳腺導管を取り囲む1型コラーゲンを含む膠原線維層はHFD群でND群に比べて肥厚していた。妊娠を誘導すると、ND群では妊娠8日目に乳腺上皮細胞の増殖増加を伴って導管から側方に導管側枝が出芽し、妊娠13日目では導管側枝の先端に腺房構造が認められた。妊娠18日目では腺房はさらに大きく発達し、乳脂肪滴の蓄積や乳蛋白質遺伝子の発現が認められた。一方、HFD群は、妊娠8日目では有意な細胞増殖の増加が見られず、導管側枝の出芽もND群より少なく、その後の乳脂肪滴の形成や乳蛋白質遺伝子の発現など腺房機能の発達も遅延した。つまり、乳腺間質脂肪細胞の肥大化は乳腺の形態学的及び機能的発達を妊娠前および初期の段階で遅延らせることが明らかとなった。さらに培養細胞を用いた実験により、肥満マウスで分泌が増大した脂肪細胞分泌因子、レプチンが乳腺上皮細胞の増殖を抑制し、線維芽細胞での1型コラーゲン産生を増大させることを明らかにした。つまり、これらの結果は過剰に分泌されたレプチンが細胞増殖抑制や導管周囲の線維化を介して乳腺発達を抑制したことを示唆した。
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