研究概要 |
これまでに脂肪細胞の状態が大きく異なる食餌性肥満(HFD)マウスと対照(ND)マウスを用い、HFD群未妊娠の乳腺では導管の分枝頻度が低下し、その細胞組成や間質構造にも異常があること、HFD群妊娠期乳腺においても腺房構造形成遅延と機能成熟の遅れがあることを明らかにした。HFD群では脂肪細胞分泌因子レプチンの異常な発現があり、レプチンはin vitroで乳腺上皮細胞の増殖を抑制し、肝細胞増殖因子HGFによる乳腺上皮細胞の導管形成を抑制した。さらにレプチン受容体は導管とその側枝周囲に観られるものの腺房周囲には観られなかったので,肥満による非妊娠期、妊娠期の乳腺発達の抑制は高濃度レプチンによる乳腺導管上皮細胞の増殖分化不全が原因であると示唆された。次に、この仮説をin vivoにおいて証明するため、性ホルモンを用いた人為的なマウス乳腺発達モデルで高濃度レプチンへの暴露実験を行った。卵巣摘出マウスにエストロゲン(E)を8日間投与するとほぼすべての導管で細胞増殖の亢進が観られたが、プロゲステロン(P)投与では観られなかった。EとPの同時投与(EP)では有意な導管分枝数の増加と側枝様の構造の発達が見られ、EPではEとは異なり側枝と推定される細い導管で多くの増殖細胞が認められた。そこでEPによる乳腺の発達に対するレプチンの影響について調べたところ、レプチン投与はEPによる導管分枝数の増加を減少させる傾向にあり、導管当たりの増殖細胞率は有意に減少した。以上の結果は仮説を支持し、妊娠初期にレプチンが乳腺上皮細胞増殖を抑制し導管側枝形成を阻害することが、食餌性肥満による妊娠期の腺房形成遅延の原因であることを示唆した。
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