研究概要 |
本研究の目的は,ヘルペスウイルスが非自然宿主に致死性脳炎を引き起こすメカニズムを分子レベルで解明することである.すなわち,ウマ属を自然宿主とするウマヘルペスウイルス1型(EHV-1)および9型(EHV-9)を対象とし,非自然宿主であるマウスにおけるウマヘルペスウイルスによる致死性脳炎の発現メカニズムを分子動態として明らかにすることである.今年度はEHV-1およびEHV-9感染細胞における網羅的転写解析を行った.ウイルス感染細胞から全RNAを抽出し,polyA保有RNAを精製した.極性を維持した塩基配列解読を行った.解読は次世代シーケンサーIlluminaによった.感染宿主細胞として自然宿主である馬由来細胞として馬腎臓細胞を用いた.感染8時間後における転写産物をEHV-1感染細胞とEHV-9感染細胞で比較したところ,大きな相違は見いだされなかった.EHV-1感染細胞について経時的な変動をみるため,感染後0時間,2時間,4時間および8時間後の転写産物を解読した.当初の予想と異なり,宿主由来転写産物の変動はほとんどなかった.感染後に変動がみられた遺伝子は未知のものが多く,同定にはいたらなかった.また,今回の研究の基盤となっているウマヘルペスウイルス1型BACクローンについて,これまでの実験結果から親株よりもやや病原性がやや低下していることがわかっている.そこで,BACクローンAb4pattBの全塩基配列を解読した.その結果,ORF2にアミノ酸置換をともなう点突然変異が見いだされた.Red/ETシステムによりこの点突然変異を親株と同じ塩基に修復した.修復ウイルスの病原性を調べたところ,親ウイルスより病原性が低く,Ab4p attBとほぼ同様であった.これらの結果から,BACクローンの病原性低下はBACベクター配列挿入のために親ウイルスゲノムに挿入したattB配列による可能性が示唆された.組み換えウイルスによる病原性評価において留意すべき点であることがわかった.
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