研究概要 |
成体胸腺上皮幹細胞の維持・再生の転写制御機構について、ホメオドメイン転写因子であるMeis1の発現・機能の面から解析を行い、以下の成果を得た。 1. 成体胸腺上皮細胞にはMeis1の発現レベルの異なる3つの細胞集団が存在し、これらの細胞群における遺伝子発現をマイクロアレイ解析した結果、Meis1を高発現する細胞群は、Hoxa3, Pbx1, Pax1, Pax9などの胎仔期の胸腺発生に必須の転写因子を高発現する胎仔期上皮に類似した未熟な細胞集団であり、一方、Meis1を低発現する細胞群はAireを高発現する成熟した髄質胸腺上皮であることが明らかになった。 2. K14-CreER^<T2>-Meis1^<flox>マウスを用いて、タモキシフェン投与により成体マウスにおいてMeis1の欠失を誘導したところ、欠失初期には胸腺上皮細胞の分化マーカー陰性の胸腺上皮前駆細胞と考えられる細胞集団が選択的に消失した。また、マイクロアレイ解析によりHoxa3, Pbx1, Pax1, Pax9などの遺伝子発現の顕著な低下が観察されることから、Meis1欠失に最も感受性を示す細胞群は、Meis1を高発現する胸腺上皮前駆細胞であることが示唆された。 3. 上記の胸腺上皮細胞集団の細胞周期について解析した結果、Meis1を高発現或は低発現する細胞群は細胞増殖しておらず静止期にあり、一方、Meis1を発現していない細胞群は増殖する細胞集団を含んでいた。Meis1欠損の細胞周期に与える影響について解析した結果、Meis1欠損の誘導により、Meis1を高発現する細胞群に対応する未熟な上皮細胞の細胞周期が進行し、増殖が誘導されていることが明らかになった。 以上の結果から、Meis1を高発現する細胞群は成体胸腺上皮前駆細胞に相当する細胞集団でありぐMeis1はそれら細胞の静止期の維持に関与しており、Meis1欠損により胸腺上皮前駆細胞の枯渇がおこり、それによって成体胸腺の恒常性維持の破綻が起こることが示唆された。
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