研究概要 |
成体胸腺上皮幹細胞の維持・再生の転写制御機構について、ホメオドメイン転写因子であるMeis1の発現・機能の面から解析を行い、以下の成果を得た。 1.Meis1の遺伝子発現をモニターするために、Meis1遺伝子座にEGFP遺伝子をノックインしたBACトランスジェニックマウスを用いて、胸腺におけるMeis1の発現をより詳細に解析したところ、T前駆細胞には発現は検出されず、胸腺上皮細胞に高い発現が認められ、Meis1の発現レベルの異なる3つの上皮細胞集団が存在することが明らかになった。 2.Meis1の発現レベルの異なる3つの細胞集団における遺伝子発現をマイクロアレイ解析した結果、Meis1を高発現する細胞群は、Hoxa3,Pbx1,Pax1,Pax9などの胎仔期の胸腺発生に必須の転写因子を高発現する胎仔期上皮に類似した未熟な細胞集団であり、一方、Meis1を低発現する細胞群はAireを高発現する成熟した髄質胸腺上皮であることが明らかになった。 3.Keratin14(K14)-CreERT2マウスとMeis1の第8エキソンをfloxしたMeislfloxマウスを交配することで、K14-CreERT2-Heislfloxマウスを作製し、タモキシフェン投与により成体マウスにおいてMeis1の欠失を誘導したところ、処理後2週で、皮質・髄質境界領域の上皮細胞の消失ならびに胸腺細胞数の減少、4週では皮質・髄質領域の著しい萎縮ならびに皮質領域におけるK5・K8二重陽性上皮細胞の出現を認め、処理後12週で胸腺の完全な消失が認められることが明らかになった。 4.タモキシフェン投与により成体マウスにおいてMeis1の欠失を誘導した場合、欠失初期には胸腺上皮細胞の分化マーカー陰性の胸腺上皮前駆細胞と考えられる細胞集団が選択的に消失した。また、マイクロアレイ解析によりHoxa3,Pbx1,Pax1,Pax9などの遺伝子発現の顕著な低下が観察されることから、Meis1欠失に最も感受性を示す細胞群は、Meis1を高発現する胸腺上皮前駆細胞であることが示唆された。 5.グルココルチコイド処理後の胸腺再生過程において、Meis1を高レベルに発現した上皮細胞集団が増加し、一方、加齢に伴い、これらMeis1を高発現した上皮細胞数は低下することが明らかになった。
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