研究概要 |
本研究課題は今まで構造解析が困難であった人獣共通感染症由来のタンパク質であるプリオンタンパク質やインフルエンザに関連するヘマグルチニン等のタンパク質の構造解析するための新たな方法論を創出することを目的としている。そのための方法として任意の場所にスピンプローブを導入して電子スピン共鳴法(ESR)により解析する方法を発展させた。今年度はCW-ESRを用いて、マウスのプリオンタンパク質にはヒスチジンの186残基にCu(II)が配位しているという新しい知見を明らかにすることが出来た。これは5つのプリオンタンパク質の残基をCys残基に変換し、スピンプローブ(R1)を導入し、添加したCu(II)との距離計測により明らかとなったものである。5つの変異とはmoPrP(D143R1),moPrP(Y148R1),moPrP(E151R1),moPrP(Y156R1),ならびにmoPrP(T189R1)であり、moPrP(D143R1)では20Å以内のCu(II)の存在を示すスピンプローブのESRシグナルの線幅の増大は見られなかったが、他の変異体についてはその線幅の増大が見られ、スピン間距離はmoPrP(Y148R1),moPrP(Y151R1),moPrP(Y156R1)ならびにmoPrP(T189R1)ではそれぞれ12.1Å、18.1Å、10.7Åならびに8.4Åであった。さらにmoPrP(Y156R1,H186A)では線幅の増大が見られなかった。このスピン間距離はコンピューターシュミレーションの結果からも支持され、H186が新しいCu(II)の結合部位であることが明らかとなった。また、連携研究者の明治大学の平岡研究室に設置されたパルスESRをタンパク質解析のために始動させ、来年度にむけてプリオンの凝集体やヘマグルチニンの解析への準備が整った段階である。
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