H5N1亜型を代表とする鳥インフルエンザウイルスに起因する新たなインフルエンザパンデミックの発生が危惧される。今後予想される抗ウイルス薬耐性ウイルスの出現と拡がりは、予防ワクチンの重要性を強調するものの、不活化ワクチンの有効性に対する不安や、生ワクチンの安全性、使用時期の制限から、鳥インフルエンザの制御を目指した、より効果的で安全なワクチン戦略が早急に求められている。本研究では、新しい戦略として非増殖型半生ワクチンの構築を目的とする。このワクチンウイルスは細胞に感染し、防御免疫抗原を感染細胞上に発現するが、感染性ウイルス粒子は産生されない。したがって、安全性は極めて高く、一方、不活化ワクチンを凌ぐ防御効果が期待できる。得られる成果は、インフルエンザワクチン戦略のブレークスルーに発展する可能性がある。 本年度は、昨年度樹立に成功したNA恒常発現細胞を用い、NA欠損型非増殖型半生ウイルスの構築を試みた。その結果、NA遺伝子を欠損するウイルスは、弱いながらも細胞での自立増殖が見られ増殖型であることが判明した。したがって、目的とする非増殖型半生ワクチンの構築には合致しないと判断した。一方、この実験を進める中、NA恒常発現細胞において野生型ウイルスとは異なるプラック表現型を有する変異株を選択した。このウイルスを解析したところ、HAタンパク質の190番目のアミノ酸がグルタミン酸からリジンに変異していることを発見した。変異株のレセプター特異性は野生型を変わらないものの、そのレセプター結合力は強くなっていた。このNA変異株はマウスの肺での増殖能が低く、その結果、弱毒化していた。変異株経鼻接種マウスは、野生株の攻撃を完全に防御したことより、弱毒生ワクチンとしての応用性が考えられた。
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