本研究ではマダニ媒介性感染症である、バベシア症の新たな予防・治療薬を開発するため、我々が最近明らかにした、病原虫の媒介者であるマダニが保有する殺バベシア原虫蛋白質(TBP : tick babesiacidal protein)について、マダニ個体内での産生応答と殺原虫機構のさらに詳細かつ包括的な解明を図る。明らかにされたTBPの機能と構造をもとに設計・合成したペプチドを応用した、バベシア症の発症をもたらす赤血球寄生期(赤内型原虫)の発育・増殖を特異的に阻害しうる有効かつ安全なバベシア症治療薬の開発に資することを、主要な目的とする。本年度は殺バベシア原虫活性を保有するTBPを単離するために、フタトゲチマダニの唾液腺及び中腸から候補分子の選抜を実施した。1.ロンギシンなどすでに単離されているTBPから推定されている殺赤内型原虫活性基をもとに、中腸、ヘモサイト及び唾液腺ESTデータベースより、類似のアミノ酸構造をコードするcDNAを単離し、蛋白質一次及び二次構造を解析し、蛋白質の全長がアミノ酸100残基以下で構成されるcDNAを選抜、複数のTBP候補分子を単離した。2.単離したTBPの構成アミノ酸に基づく合成ペプチド、大腸菌・酵母・バキュロウイルス等の発現系を用いて作製した組換え体で、マウス・ウサギを用いて、それぞれのTBPを特異的に認識する抗体を作製した。組換え蛋白質のIn vitro解析によってロンギスタチンの血液凝固阻止活性が確認された。3.ウサギに成ダニを付着させ、飽血まで経時的に回収し、TBPの発現動態を解析した。ロンギスタチン遺伝子はマダニの全発育史で確認され、吸血に伴って発現が増大することが分かった。特に、吸血量が増える吸血後期において、ロンギスタチンの発現は著しく増大し、飽血後は、発現が停止することが分かった。また、内在型ロンギスタチンは、宿主皮下に形成される血液貯留庫に放出されていることが分かった。
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