研究概要 |
CMVベクターに35S promoter(35Spro)配列を様々な長さで挿入し,GFPを発現するベンタミアーナ(16C)に感染させて転写型ジーンサイレンシング(TGS)の誘導の有無や程度を調査した.その結果,挿入断片の長さが90塩基以上の場合GFPのTGSが効率的に誘導され,そのTGSは自殖種子から生じた次世代植物に遺伝することを観察した.このTGS誘導には,CMVベクターにコードされている2b遺伝子の機能が重要な役割を果たすことも明らかになった.したがって,CMVベクターは他の植物ウイルスベクターに比較して,ターゲット遺伝子に対するTGS誘導に特に役立つものと期待される. 次に,CMVベクターを接種した当代の16C植物およびその後代の植物で35Sproのメチル化状態をバイサルファイトシーケンス法によって解析したところ,挿入配列に相当する部分のシチジン(C)に高頻度のメチル化を確認した.さらに,頻度は低いものの挿入配列の外側の部分にもメチル化が拡大していることも判明した.また,このTGSについてメチル化DNAの周辺に結合・集合しているヒストンタンパク質の修飾状態をChIP法によって解析したところ,ヒストンH3の脱アセチル化および9番目のリジン残基(K9)のメチル化を確認した. これらの結果を総合して,CMVベクターにより35Spro等の外来遺伝子のプロモーターをターゲットに挿入遺伝子の発現をエピジェネティック制御可能であることを立証した.また,そのTGSは後代に遺伝することも明らかになった.このベクターを利用して内在性遺伝子の発現制御が可能となれば,植物の形質を改変する新規の形質転換法の開発につながるものと考える.
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