研究概要 |
光学活性な有機化合物は医薬品,農薬,香料などの様々な製品に用いられている。その需要は年々高まり,環境に負荷をかけない供給法の開発が急務ある。著者は最近,アリルアルコールにリパーゼとOV(OSiPh3)3を反応させると,水酸基の1,3-転位を伴う動的光学分割が進行し,(R)-アリルエステル(>90%ee)が収率90%以上で得られることを見出した。本研究では,この酵素-金属複合触媒法を発展させ,ラセミ体アルコールから光学的に純粋な有機化合物を短工程,高収率で不斉合成する革新的手法の開発を行う。本年度は,研究実施計画に基づき次の成果を得た。 1. OV(OSiPh3)3の中心金属や置換基を変換して,より高活性なラセミ化触媒を探索した結果,ポリマー担持リン酸に結合したオキソバナジウム化合物が高活性を示し,かつ同一反応液中でリパーゼと共存できることを見出した。そこで,この金属触媒とリパーゼを併用し,鎖状,環状,脂肪族,芳香族,含複素環など多様なアリルアルコールから-挙に(R)-アリルエステル(90-99%ee)を収率60-99%で不斉合成する方法を開発した。本法は,入手容易なカルボニル化合物と炭素陰イオンを原料にして全2~4工程で高光学純度のアリルエステルを簡便に提供するものである。さらに,アリルアルコールの位置異性体が等価な基質として利用できるために,基質合成ルートを柔軟に選択できる利点もある。 2. (S)-アルコールを選択的にエステル化する加水分解酵素のスブチリシンは不安定であったが,界面活性剤と糖を添加して固定化することで反応性と安定性を向上させることができた。今後,金属触媒との併用による動的光学分割を検討する。これによって,酵素の選択によるR-, S-両エナンチオマーの作り分け法を開発する。
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