研究概要 |
昨年度に引き続き、生細胞膜タンパク質の会合状態に関して詳細な検討を行った。これまでに確立した、コイルドコイルラベル法を用いた蛍光励起エネルギー移動(FRET)による受容体の会合解析法を改良した。従来用いてきたよりも長いFRETペア(Alexa568-Alexa647)を用いることで、N末端同士がより離れている場合(80Å程度)でもFRET検出を可能にした。この色素ペアを用いて、単量体・2量体・4量体を形成すると言われている膜タンパク質GpA G83Imutant・mGluR1b・M2 channel proteinのCHO細胞膜での会合状態を解析したところ、測定値がそれぞれ単量体-2量体・4量体の理論値とよく一致することが明らかになった。従って、この方法で生細胞膜での膜タンパク質の会合状態が正確に解析可能なこと、また上述の各膜タンパク質が多量体のスタンダードとして有用であることがわかった。そこで、会合状態について論争のあるβ2アドレナリン受容体について再びFRET測定を行った。発現方法(一過性発現または安定発現)や温度(20-37℃)、発現させた細胞種(CHO,HEK293)に関わらず、FRETシグナルは検出されなかった。また受容体アゴニスト・アンタゴニスト・逆アゴニストを添加した場合にも、強いFRETシグナルは見られなかった。HEK293細胞に受容体を発現させ、アゴニストであるイソプロテレノール刺激後に、弱いFRETシグナルの増加が見られたが、FRET強度の経時変化を測定したところ、刺激5分以内に開始するcAMP応答に遅れて、刺激10分後以降にFRET値の上昇が観測された。従って観測されたFRETは、受容体による下流シグナル活性化機能とは無関係であるといえる。以上の結果より、β2アドレナリン受容体はホモオリゴマーを形成せずに単量体として存在するか、他の受容体等とヘテロ会合体を形成している、またホモオリゴマーを形成しなくても受容体として機能する、と結論した。
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