本研究は、各sPLA_2アイソザイムの過剰発現マウスおよび欠損マウスを用いて、それぞれの生体内機能を解明することを目指すものである。本年度は、アイソザイムのひとつであるsPLA_2-Xの生体内機能について以下の研究成果を得た。 (1)sPLA_2-Xと体毛形成:sPLA_2-Xは毛周期の増殖期に呼応して毛包最外層(外根鞘)に限局して発現していることを見出した。sPLA_2-Xの過剰発現トランスジェニックマウスは第一毛周期に脱毛と表皮肥厚を伴う皮膚異常を示した。一方、sPLA_2-X欠損マウスの皮膚では毛包外根鞘の不全のため体毛関連遺伝子群の部分的な発現減少が認められた。したがって、sPLA_2-Xは皮膚組織において毛包に時空間的に発現し、体毛形成の制御に関わるアイソザイムであることが明らかとなった。 (2)sPLA_2-Xと生殖、消化、神経機能:sPLA_2-Xは雄性生殖器、消化管、末梢神経繊維に分布している。各発現部位における本酵素の機能を解明した。(1)生殖:sPLA_2-Xは精子のアクロソームから遊離され、尖体放出反応に関わる。このため、欠損マウスは受精率が低下する。(2)消化:sPLA_2-Xは消化管粘膜細胞から内腔に分泌され、食餌より摂取したリン脂質の消化に関わる。このため、欠損マウスでは脂質の消化吸収が乱れて結果的に脂肪蓄積の減少を示す。(3)神経:sPLA_2-Xは末梢神経繊維に分布し、神経突起伸長を促進する作用を持つ。このため、欠損マウスでは末梢性疼痛応答が軽減し、逆に過剰発現マウスでは痛覚が増大する。 これらの研究成果は、sPLA_2-Xの全く新しい機能(体毛、生殖、消化、神経)を示した初めての知見であり、J Biol Chemに連報で採択された。
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