多環芳香族炭化水素類が環境・生体で新たに獲得する毒性に関する戦略研究

2011 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 21390034
• 研究機関: 金沢大学
• 研究代表者: 早川 和一 金沢大学, 薬学系, 教授 (40115267)
• 研究分担者: 鈴木 信雄 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 准教授 (60242476)
• キーワード: 多環芳香族炭化水素類 / 酵母two-hybrid法 / 再生ウロコ / エストロゲン様活性 / 抗エストロゲン様活性 / in vitroの実験 / 海水中の濃度

研究概要

目的:原油タンカーやパイプラインの事故,あるいは化石燃料の燃焼等に伴って大量放出された多環芳香族炭化水素(PAH)類が,水・大気・土壌中で反応し,また動物体内で代謝されて新たな毒性を獲得する機序とそのリスクを明らかにするために,本年度は以下の3項目において実験を行った。
(1)酵母two-hybrid法を用いたPAH酸化体の内分泌かく乱作用の構造パラメータ評価
エストロゲン受容体競合試験,並びに酵母two-hybbid法で特に作用が強かったPAH酸化体(OHPAH,PAHQ)について,構璋と結合作用の強さとの関係を,コンピュータソフトを用いて詳細に解析した。その結果、PAHQはエストロゲン活性がないが、4,5環のPAHQにはOHPAHと同様に強い抗エストロゲン活性を示すものがあった。比較的強い抗エストロゲン活性を示すPAHQのL/B比(長軸と短軸の長さ比)は,OHPAHと殆ど同じ範囲であることがわかった。
(2)PAH類の魚鱗に対する影響評価
昨年度までの実験で強い活性が認められたOHPAHとPAHQを対象に,完成した再生鱗を用いるシステムを用いて,骨芽細胞と破骨細胞に対する作用を解析した。その結果、多くのOHPAHが,ウロコの骨芽細胞及び破骨細胞の活性を変化させ,エストロゲン様/抗エストロゲン様活性が確認された。なお,酵母two-hybrid法の結果と必ずしも一致しなかったので,魚鱗試験法にはERに依存しない作用発現経路もある可能性が高い。
(3)海洋のバックグラウンドPAH,NPAHレベル測定
海洋の極低濃度NPAHが定量出来るHPLC分析法の開発を行い。既に開発したPAH分析法を用いて,日本海域のPAH分布を明らかにした結果,
・NPAH分析法が完成次第,日本海域のNPAH分布の測定を開始する。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

PARの水酸化体及びキノン体の内分泌かく乱作用の構造活性相関を明らかにし、これらの魚類に及ぼす影響についても結果を得る事が出来、交付申請書通りに研究が進行した。

今後の研究の推進方策

魚鱗のアッセイにおいて、遺伝子レベルで解析すると共に、メダカのin vivoや海産動物のウニを持ちいて、PAH類の作用を調べる。さらに海水や大気中のPAH濃度を分析する事により、どんな場所であらゆるどんな要因でこれら水生動物に影響を及ぼすレベルに達することになるかを明らかにし、環境の保全と防災に有用な知見を提供する。

研究成果

• [雑誌論文] Parathyroid hormone 1 (1-34) acts on the scales and involves calcium metabolism in goldfish (2012)
  • 著者名/発表者名: Suzuki, N., Danks, J.A., Maruyama, Y., Ikegame, M., Sasayama, Y., Hattori, A., Nakamura, M., Tabata, M.J., Yamamoto, T., Furuya, R., Saijoh, K., Mishima, H., Srivastav, A.K., Furusawa, Y., Kondo, T., Tabuchi, Y., Takasaki, I., Chowdhury, V.S., Hayakawa, K. and Martin T.J.
  • 雑誌名: Bone 巻: 48 ページ: 1186-1193
  • DOI: DOI:10.1016/j.bone.2011.02.004
  • 査読あり
• [雑誌論文] How do transport and metabolism affect on the biological effects of polycydic aromatic hydrocarbons? (2012)
  • 著者名/発表者名: Bekki, K.
  • 雑誌名: Yakugaku Zasshi 巻: 132 ページ: 325-329
  • DOI: 10.1248/yakushi.132.325
  • 査読あり
• [雑誌論文] Prostaglandin E2 increases both osteoblastic and osteoclastic activities in the scales of goldfish and participates in the calcium metabolism in goldfish (2012)
  • 著者名/発表者名: Omori, K.
  • 雑誌名: Zool.Sci. 巻: (in press)
  • 査読あり
• [雑誌論文] Cloning of two members of the calcitonin receptor family from stingray, Dasyatis akajei : Possible physiological roles of the calcitonin family in osmoregulation (2012)
  • 著者名/発表者名: Suzuki, N.
  • 雑誌名: Gene 巻: 499 ページ: 326-331
  • DOI: 10.1016/j.gene.2012.03.042
  • 査読あり
• [雑誌論文] Gene expression changes of phase I and II metabolizing enzymes induced by PAH derivatives (2012)
  • 著者名/発表者名: Bekki, K.
  • 雑誌名: Polycyclic Aromatic Compounds 巻: (in press)
  • 査読あり
• [雑誌論文] 自動面積測定法によるキンギョのウロコを骨のモデルとしたアッセイ法の改良 (2011)
  • 著者名/発表者名: 北村敬一郎,中野 淳,川部季美,早川和一,根本 鉄,大嶋雄治,島崎洋平,遠藤雅人,服部淳彦,鈴木信雄
  • 雑誌名: 日本海域研究 巻: 42 ページ: 27-34
  • 査読あり
• [雑誌論文] Etiological role of cigarette smoking in rheumatoid arthritis : Nasal exposure to cigarette smoke condensate extracts augments the development of collagen-induced arthritis in mice (2011)
  • 著者名/発表者名: Onozaki, K.
  • 雑誌名: Biochem.Biophys.Res.Commun. 巻: 404 ページ: 1088-1092
  • 査読あり
• [雑誌論文] Effects of inorganic mercury on osteoclasts and osteoblasts of the goldfish scales in vitro (2011)
  • 著者名/発表者名: Suzuki, N.
  • 雑誌名: J.Fac.Agr., Kyushu Univ. 巻: 56 ページ: 47-51
  • 査読あり
• [雑誌論文] 中国・北京及び日本・金沢の大気が示すAhR活性化作用へのPAH類及びダイオキシン類の寄与 (2011)
  • 著者名/発表者名: 戸次加奈江
  • 雑誌名: 環境化学 巻: 21 ページ: 27-33
  • 査読あり
• [雑誌論文] 多環芳香族炭化水素から見た海洋油汚染 (2011)
  • 著者名/発表者名: 早川和一
  • 雑誌名: 安全工学 巻: 50 ページ: 85-92
  • 査読あり
• [雑誌論文] 日本および中国における大気粒子中多環芳香族炭化水素キノンの観測-濃度レベルの把握と発生要因の検討- (2011)
  • 著者名/発表者名: 片山裕規
  • 雑誌名: 大気環境学会誌 巻: 46 ページ: 20-29
  • 査読あり
• [雑誌論文] 両性イオン型高分子を混合紡糸した新規繊維状吸着剤による臭気物質の吸着・除去 (2011)
  • 著者名/発表者名: 上茶谷若
  • 雑誌名: におい・かおり環境学会誌 巻: 42 ページ: 371-376
  • 査読あり
• [学会発表] 日本海における多環芳香族炭化水素の分布 (2012)
  • 著者名/発表者名: 吉田翔太
  • 学会等名: 日本薬学会第132年会
  • 発表場所: 北海道大学(北海道)
  • 年月日: 20120328-20120331
• [学会発表] 活性酸素種を生成する9,10-phenanthrenequinoneのヒト尿中代謝物の測定 (2012)
  • 著者名/発表者名: 旭美樹
  • 学会等名: 日本薬学会第132年会
  • 発表場所: 北海道大学(北海道)
  • 年月日: 20120328-20120331
• [学会発表] 魚の胆汁及び尿中多環芳香族炭化水素代謝物の測定 (2012)
  • 著者名/発表者名: 笠原千栄子
  • 学会等名: 日本薬学会第132年会
  • 発表場所: 北海道大学(北海道)
  • 年月日: 20120328-20120331
• [学会発表] 魚類の骨代謝に対するポリ塩化ビフェニルの作用 (2012)
  • 著者名/発表者名: 谷内口孝治
  • 学会等名: 第45回日本水環境学会
  • 発表場所: 東洋大学(東京都)
  • 年月日: 20120314-20120316
• [学会発表] 魚類の骨代謝に及ぼす多環芳香族炭化水素類の作用 (2012)
  • 著者名/発表者名: 鈴木信雄
  • 学会等名: 第45回日本水環境学会
  • 発表場所: 東洋大学(東京都)
  • 年月日: 20120314-20120316
• [学会発表] 水酸化多環芳香族炭化水素のメダカとウニの胚発生に及ぼす影響 (2011)
  • 著者名/発表者名: Hayakawa, K.
  • 学会等名: The 4th IWA-ASPIRE Conference & Exhibition
  • 発表場所: Tokyo International Forum(東京都)
  • 年月日: 20111102-20111106
• [学会発表] 中国人小学生を対象とした尿中酸化ストレスマーカーの測定-大気汚染物質曝露による影響- (2011)
  • 著者名/発表者名: 細住智恵美
  • 学会等名: フォーラム2011:衛生薬学・環境トキシコロジー
  • 発表場所: 金沢エクセルホテル東急(石川県)
  • 年月日: 20111027-20111028
• [学会発表] 関節リウマチ患者由来滑膜細胞でのIK-1β発現上昇に及ぼすタバコ煙抽出物の影響 (2011)
  • 著者名/発表者名: 足立実季
  • 学会等名: フォーラム2011:衛生薬学・環境トキシコロジー
  • 発表場所: 金沢エクセルホテル東急(石川県)
  • 年月日: 20111027-20111028
• [学会発表] タバコ煙抽出物のマウスコラーゲン誘導性関節炎病態増悪に関する研究 (2011)
  • 著者名/発表者名: 竹野聖史
  • 学会等名: フォーラム2011:衛生薬学・環境トキシコロジー
  • 発表場所: 金沢エクセルホテル東急(石川県)
  • 年月日: 20111027-20111028
• [学会発表] 多環芳香族炭化水素類のメダカの胚発生に及ぼす影響 (2011)
  • 著者名/発表者名: 川部季美
  • 学会等名: フォーラム2011:衛生薬学・環境トキシコロジー
  • 発表場所: 金沢エクセルホテル東急(石川県)
  • 年月日: 20111027-20111028
• [学会発表] Distribution of polycyclic aromatic hydrocarbons in the North-western part of Japan Sea (2011)
  • 著者名/発表者名: Chizhova, T.L.
  • 学会等名: PICES 2011 Annual Meeting
  • 発表場所: Khabarovsk's Official Reception House (Russia)
  • 年月日: 20111014-20111023
• [学会発表] 北陸地方の雪及び大気中の多環芳香族炭化水素 (2011)
  • 著者名/発表者名: 立松路也
  • 学会等名: 第52回大気環境学会年会
  • 発表場所: 長崎大学(長崎県)
  • 年月日: 20110914-20110916
• [学会発表] 多環芳香族炭化水素類の内分泌かく乱作用:魚類のウロコを用いたバイオアッセイによる解析 (2011)
  • 著者名/発表者名: 川部季美
  • 学会等名: 平成23年度日本動物学会中部支部例会
  • 発表場所: 福井大学(福井県)
  • 年月日: 20110730-20110731
• [学会発表] 多環芳香族炭化水素類の内分泌かく乱作用の解析:魚類のウロコを用いたバイオアッセイによる解析 (2011)
  • 著者名/発表者名: 中野淳
  • 学会等名: 平成23年度日本動物学会中部支部例会
  • 発表場所: 福井大学(福井県)
  • 年月日: 20110730-20110731
• [学会発表] キンギョの鰓後腺におけるカルシトニンI及びII mRNAの検出 (2011)
  • 著者名/発表者名: 福島綾香
  • 学会等名: 平成23年度日本動物学会中部支部例会
  • 発表場所: 福井大学(福井県)
  • 年月日: 20110730-20110731
• [学会発表] キンギョのウロコにおける無機水銀の作用:in vitroのアッセイによる解析 (2011)
  • 著者名/発表者名: 谷内口孝治
  • 学会等名: 平成23年度日本動物学会中部支部例会
  • 発表場所: 福井大学(福井県)
  • 年月日: 20110730-20110731
• [学会発表] エストロゲン及び多環芳香族炭化水素類のキンギョの骨代謝に及ぼす影響評価 (2011)
  • 著者名/発表者名: 松本典子
  • 学会等名: 平成23年度日本動物学会中部支部例会
  • 発表場所: 福井大学(福井県)
  • 年月日: 20110730-20110731
• [学会発表] 活性酸素種を生成する多環芳香族炭化水素キノン誘導体のヒト尿中代謝物の同定と定量 (2011)
  • 著者名/発表者名: 旭美樹
  • 学会等名: 第20回環境化学討論会
  • 発表場所: 熊本県立大学(熊本県)
  • 年月日: 20110716-20110718
• [学会発表] 環境中の多環芳香族炭化水素および細菌の除去を目的とした機能性繊維の開発及び評価 (2011)
  • 著者名/発表者名: 山田丸
  • 学会等名: 第20回環境化学討論会
  • 発表場所: 熊本県立大学(熊本県)
  • 年月日: 20110716-20110718
• [学会発表] in vivo study of the effect of polycyclic aromatic hydrocarbons on the regenerating scales in goldfish (2011)
  • 著者名/発表者名: Kawabe, K.
  • 学会等名: The 52^<nd> Meeting of Korean Society for Atmospheric Environment (2011)
  • 発表場所: National Institute of Environmental Research (Korea)
  • 年月日: 20110512-20110514
• [学会発表] 水酸化多環芳香族炭化水素のメダカとウニの胚発生に及ぼす影響 (2011)
  • 著者名/発表者名: 川部季美
  • 学会等名: 日本薬学会北陸支部第123回例会
  • 発表場所: 金沢大学(石川県)
  • 年月日: 2011-11-27