研究課題
ディーゼル排ガス(DE : Diesel Exhaust)はディーゼル排気微粒子(DEP : Diesel Exhaust Particles)とガス状成分から構成されており、都市における大気汚染の主要因の一つである。本研究では、胎仔期DEP曝露による学習・記憶への影響を評価した。行動評価試験では、胎仔期DEP曝露により空間学習・記憶の低下が認められた。そこで、学習・記憶の形成に深く関与するグルタミン酸神経系とアセチルコリン神経系に着目し、グルタミン酸受容体とアセチルコリンの合成酵素を免疫組織化学染色により詳細な解析を行った。その結果、胎仔期DEP曝露マウスの海馬においてN-methyl-D-aspartate receptorとGlutamate receptor 1の発現の有意な低下が認められた。一方、両群において、アセチルコリンの律速合成酵素であるcholine acetyltransferaseの発現に有意な差は認められなかった。本研究により、胎仔期DEP曝露は、海馬のグルタミン酸受容体の発現の低下を引き起こすことが明らかとなり、空間学習・記憶障害が生じた可能性が示唆された。一方、意図的に造られ汎用されているTiO_2ナノ粒子の妊娠期曝露が胎仔の脳の発達に及ぼす影響を遺伝子発現の観点から検討した。マイクロアレイを用いて脳の発育や成長がさかんな時期の遺伝子発現を網羅的に解析し、出生仔の脳の発達に及ぼす影響を推定した。新しく開発した"GO term"および"MeSH term"を用いたアノテーション解析により遺伝子の変動を経時的に解析した結果、アポトーシスや発達・成長、酸化ストレスに関わるtermが変動することを認めた。また、MeSH termによる解析では、それに加えて神経伝達物質や情動や疾患に関連するtermも変動が認められた。以上、本研究により、妊娠期の母獣へのディーゼル排気微粒子曝露やTiO_2ナノ粒子の曝露は、胎仔期のみならず、出生後まで胎仔の脳の遺伝子発現を変化させ、中枢神経系の発達や機能に影響を及ぼす可能性があることが示唆された。今後、詳細なリスク評価や疫学の研究が求められる。
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