チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)は現在ではがん薬物療法の中心薬剤であるが、従来の化学療法剤と異なり、薬効の延長線上では捉えきれない副作用発現が問題となっでおり、副作用発現機構の解明が急務である。初年度である平成21年度は、非小細胞肺癌などの治療に用いられるEGFR-TKIとしてgefitinibおよびerlotinibの比較、および腎細胞癌などの治療に用いられるmulti-TKIとしてsunitinibおよびsorafenibの比較を行った。各TKIの平均血漿中非結合型薬物濃度に基づいて、317種のキナーゼに対する結合率を算出し、各TKIの副作用頻度情報との相関解析を行った。結果、gefitinibと比較してerlotinibで高頻度に観察される皮膚障害に関し、リンパ球の活性を抑制的に制御するLOKおよびSLKが、またsorafenibと比較してsunitinibで高頻度に観察される肝障害に関しては、グリコーゲン代謝を制御するPHKG2が、それぞれ副作用発現の起因になる候補標的キナーゼとして挙げられた。これらの各キナーゼのヒトおよびマウスの遺伝子を単離、発現系を作製し、組換タンパク質を単離精製した。得られたタンパク質を用い、各TKIによる阻害定数を計測したところ、報告されている結合定数とほぼ一致し、また大きな種差は存在しなかった。さらに、培養細胞を用いた検討から、erlotinibは濃度依存的にリンパ球の遊走性およびIL-2分泌能を増大させることが明らかとなり、LOKあるいはSLKの阻害を介してリンパ球の活性化を生じていると考えられた。次年度以降は、皮膚刺激動物モデルを用いて検討を加える。また、マウスin vivoの検討から、sunitinibは肝臓におけるグリコーゲン代謝を顕著に抑制することが明らかとなった。次年度以降は、in vivoノックダウン法を用いて、PHKG2の阻害が肝障害発症に繋がるメカニズムに関して検討を加える。また、TKIを服用している患者の血漿中薬物濃度測定用の検体の採取・集積を開始した。次年度以降も検体収集を継続して行う。
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