チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)は現在ではがん薬物療法の中心薬剤であるが、従来の化学療法剤と異なり、薬効の延長線上では捉えきれない副作用発現が問題となっており、副作用発現機構の解明が急務である。これまで、非小細胞肺癌などの治療に用いられるEGFR-TKIとしてgefitinibおよびerlotinibの比較、および腎細胞癌などの治療に用いられるmulti-TKIとしてsunitinibおよびsorafenibの比較を行った。各TKIの平均血漿中非結合型薬物濃度に基づいて、317種のキナーゼに対する結合率を算出し、各TKIの副作用頻度情報との相関解析を行った。結果、gefitinibと比較してerlotinibで高頻度に観察される皮膚障害に関し、リンパ球の活性を抑制的に制御するLOK/STKIOに対するerlotinibによるoff-target阻害が、IL-2分泌や遊走性などのリンパ球活性の上昇を引き起こし、その結果皮膚炎症の増悪に繋がっていることを明らかとした(現在、論文リバイス中)。またmulti-kinase inhibitorであるsunitinibに関して、その肝毒性発現機構を解析した。その結果、off-targetであるPHKG2の阻害によって肝臓における糖代謝異常が引き起こされ、ペントースリン酸経路の代謝回転低下に伴う還元型グルタチオンの肝臓内レベルの低下が生じ、スニチニブの肝毒性に対する感受性が大幅に亢進することが明らかとなった(現在、論文投稿準備中)。さらに、sunitinibによる心毒性発現に関与する可能性のあるoff-targetとしてPHKG1が見出されており、平成23年度はこの点に関して検討を進める。また対象とするTKIの種類を拡大し、特に消化管毒性に着目して評価系の構築を開始しており、平成23年度も検討を継続して評価系を完成させる。また、平成22年度から開始した臨床検体の集積を継続し、TKI服用患者の血液試料を収集するとともに、集積した血漿サンプルに関して、各TKIの濃度測定を継続する。また、構築したTK-TDモデルとの比較を行う。
|