チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)は現在ではがん薬物療法の中心薬剤であるが、従来の化学療法剤と異なり、薬効の延長線上では捉えきれない副作用発現が問題となっており、副作用発現機構の解明が急務である。本研究ではまず、非小細胞肺癌などの治療に用いられるEGFR-TKIとしてgefitinibおよびerlotinibの比較、および腎細胞癌などの治療に用いられるmulti-TKIとしてsunitinibおよびsorafenibの比較を行った。各TKIの平均血漿中非結合型薬物濃度に基づいて、317種のキナーゼに対する結合率を算出し、各TKIの副作用頻度情報との相関解析を行った。結果、gefitinibと比較してerlotinibで高頻度に観察される皮膚障害に関し、リンパ球の活性を抑制的に制御するSTK10に対するerlotinibによるoff-target阻害が、IL-2分泌や遊走性などのリンパ球活性の上昇を引き起こし、その結果皮膚炎症の増悪に繋がっていることを明らかとした。平成24年度は特にsunitinibおよびsorafenibの比較研究を推進した。その結果、PHKG1および2に対するsunitinibによるoff-target阻害に伴って、肝臓・心臓・血小板・甲状腺など全身の複数の臓器における糖代謝異常が生じており、結果としてペントースリン酸回路の低下と還元型グルタチオン・レベルの低下が生じ、全身が酸化ストレスによる障害を受けており、このことがsunitinibに特徴的な種々の副作用発現に繋がっている可能性が強く示唆された。現在はヒトにおいてこの点を確認する臨床研究が進行中であり、当該情報を含めた論文報告を予定している。
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