本年度は、脂質代謝および異物代謝に関わる多くの酵素の発現を制御する転写因子peroxisome proliferator-activated receptor α(PPARα)の発現調節にmicroRNAが関与する可能性を検討した。Insilico解析により、ヒトPPARα mRNAの3'-非翻訳領域に結合し得るmicroRNAを探索し、肝臓に高く発現する6つのmicroRNAついて検討した。その結果、ヒト肝癌由来細胞株におけるPPARαタンパク質発現量が、miR-21およびmiR-27bの過剰発現またはノックダウンにより有意に減少または増加することを明らかにした。この時、PPARα mRNA発現量は変化しなかったことから、miR-21とmiR-27bは翻訳抑制によりPPARαの発現を制御していることが示唆された。また、PPARαの下流遺伝子であるacyl CoA synthetaseの発現にも影響を及ぼすことを明らかにした。複数検体のヒト肝試料において、PPARαタンパク質とmRNA発現量の間に正の相関が認めらなかったことから、転写後調節の関与が支持された。また、PPARαタンパク質発現量および翻訳効率はmiR-21発現量と逆相関を示したが、miR-27bとは示さなかった。従って、ヒト肝臓におけるPPARαの発現制御にmiR-21が大きく寄与していることを明らかにした。本研究成果は、ヒト肝臓における常在的なPPARαの発現調節機構について新しい知見を与えた意義あるものである。
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