本年度は、以下の研究に取り組んだ。動脈硬化におけるS1Pシグナル系の機能に関してはヒトマクロファージにおけるコレステロールの汲み出し能に及ぼす作用ならびにSIPを産生する主要酵素スフィンゴシンキナーゼー1(SphK1)の役割について、肥大・心筋線維化におけるS1Pシグナル系の役割に関してはS1P作用を媒介するパラクリンシグナル機構について、PI3K-C2αの生後における血管新生における役割に関してはPI3K-C2αの虚血後血管新生における役割とその機構、の探索・解明に取り組んだ。 その結果、以下の結果が得られた。主としてS1P2を発現するマクロファージでは、S1P2遮断薬によるS1P2抑制がコレステロール汲み出しを促進した。また、マウスApoE欠損粥状動脈硬化モデルにおいて全身のSphK1活性亢進は動脈硬化病変の進展に影響することを示唆する成績を得つつある。α平滑筋アクチンプロモーター下にS1P1を過剰発現するトランスジェニック(TG)マウスでは線維化を伴う心肥大を呈するが、その機構としてアンギオテンシンII(AngII)のパラクリン作用が必須であること、AngIIは線維芽細胞が産生しTGマウスではこれが亢進していること、これにはアンギオテンシン変換酵素発現亢進が関与していること、AngIIの下流でさらに別のパラクリン因子が関与していることが明らかになった。PI3K-C2αのコンディショナル欠失マウスで虚血後血管新生が亢進した。VEGF作用を比較したところ、血管内皮細胞全体でのVEGF受容体活性化には差異が見られなかった。 これらの結果は、S1Pシグナル系とPI3K-C2α系が心臓・血管ホメオスターシスに関わり、新たな治療標的となる可能性を示唆する。
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