研究概要 |
本研究は、これまでに明らかにしてきた統合失調症脆弱因子としてのPACAPの分子基盤を確立することを目的として計画・実施し、平成22年度は以下の成果を得た。 1) 統合失調症の病態の一部を反映したマウスであるPACAP欠損マウスの神経回路構築における異常を検討するため、初代培養神経細胞を用いて、神経発達の成熟期で見られるスパイン関連タンパク質PSD-95を指標とし免疫細胞染色を行ったところ、培養21日目のPACAP欠損マウス由来海馬神経細胞においてPSD-95陽性スパインの数の減少が認められた。また、8週齢のマウスの海馬CA1領域にてゴルジ染色を行ったところ、PACAP欠損マウスでは、野生型と比べ、スパイン数が減少するとともに異常な形態を持つスパインが多い傾向を示した。これらの結果は、PACAPが神経細胞の構築及び神経回路形成に関与している可能性を示すものである。 2) これまで、5-HT2A/2C受容体作動薬であるDOIの投与により一部の表現型について野生型マウスとPACAPヘテロ欠損マウス間でその反応性に違いが生じることを見出している。そこで、神経活性化マーカーであるc-fosを指標にPACAP欠損により反応性が変化している脳領域の特定を行った。その結果、両遺伝子型ではmPFC, SSCx, BLA, PVNにおいてc-Fos陽性細胞数が上昇した。とくに、SSCxでは野生型に比べPACAPヘテロ欠損マウスにおいて有意に上昇しており、PACAP欠損によりDOI腹腔内投与に対する神経細胞活性化が亢進していることが示唆された。SSCxにおける異常と統合失調症との関連が示唆されていることから、PACAP欠損によるSSCxの機能変化は精神疾患の脆弱性に関与する可能性があると考えられる。
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