研究概要 |
本研究は,これまで明らかにしてきた統合失調症脆弱因子としてのPACAPの分子基盤を確立することを目的とし,23年度は以下の成果を得た. 1)発達期における豊かな環境飼育でのPACAP欠損マウス学習記憶障害抑制作用は,少なくとも再び通常飼育とした14日後まで持続することを明らかにした.また生化学的検討から,PACAP欠損マウスの海馬特異的にNR2B発現量の増加,ERKおよびCaMK IIシグナルの活性化が生じることを明らかにした.以上の結果は,豊かな環境飼育によるPACAP欠損マウスの学習記憶障害抑制作用の分子機序として,海馬でのNR2B含有NMDA受容体の機能変化を介したERK,CaMK IIシグナルの活性化の関与を初めて示唆したものである. 2)5-HT2AR・mGluR2/3複合体へのPACAPの関与を解析するために,5-HT2ARの細胞膜上での可視化を試み,刺激による細胞内動態を測定した.その結果,PACAPにより5-HT2ARの細胞内局在変化が認められた.このことは,PACAPが特異的受容体PAC1を介して5-HT2ARに関与することを示唆する. 3)5-HT2A/2CR作動薬DOIによりc-Fos陽性細胞数の上昇がみられたPACAPヘテロ欠損マウスの大脳皮質体性感覚野(SSCx)において,c-fosと5-HT2ARとの相関を調べた結果,増加したc-fosは,5-HT2ARを発現していない神経細胞であることが分かった.このことは、DOIによるhallocinogenicな作用が直接的にSSCxに作用するのではなく,他の神経回路や伝達物質を介した変化である可能性を示す. 4)神経細胞のスパイン動態の分子基盤解明を目的として,PSD-95に蛍光蛋白質を融合させたプラスミドを作製し,生理的活性を持った発現を確認した.これを用いて,今後イメージング解析へと発展させることができる.
|