免疫反応が効率よく的確に進行するためには、多種類の細胞がリンパ節の胚中心などの特異的な構造を構築し、この構造に由来する微小環境からの信号によって個々の細胞における転写ネットワークが制御され、調和した細胞機能が発揮されることが不可欠である。本研究では、微小環境を細胞培養系で再現しつつ、これが制御する転写因子とそのネットワークを解析することによって、免疫反応を制御する分子機構を解明することを目指している。April、IL-5、retinoic acidならびにTGF-β1の添加によりIgAへのクラススイッチ組換えを高効率に誘導することができるin vitro培養実験系を確立した。この結果は、個体内で最も多く産生されているにもかかわらず効率よい試験管内誘導法が見出されていなかったIgAへのクラススイッチ組換えが、腸管という特異的微小環境に依存していること、本研究で見出された方法がその微小環境を再現できていることを示している。本年度の研究成果として、この試験管内誘導系とRunx転写遺伝子破壊マウスのBリンパ球を用いた実験からIgAへのクラススイッチ組換えにはRunx転写遺伝子が必須であり、同転写因子がretinoic acidならびにTGF-β1信号の下流で機能していることが示された。さらに、転写因子Runx3を欠損したリンパ球を持つマウスは、前腫瘍性病変である自己免疫性の炎症性腸炎を高頻度に発症することを見出した。Runx3が制御性T細胞の分化・成熟に必要であり、Runx3の欠損によって制御性T細胞の機能不全に陥るため、正常な動物では抑制されている腸炎が生ずることが判明した。
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