IκB-ζ遺伝子を欠損するマウスは、specific pathogen-free (SPF)環境下で、目の周囲に慢性炎症を自然発症する。このマウスは、涙腺にリンパ球の浸潤を伴う炎症と、涙の分泌量が低下を示すとともに、その血清中には、シェーグレン症候群の鑑別診断に用いられる抗SSA抗体、抗SSB抗体を含む自己抗体が存在することを明らかにした。この結果、このマウスの症状は、ヒトのシェーグレン症候群に酷似していることが判明した。 細胞移植実験や遺伝子欠損マウスを用いた解析を行ったところ、この炎症の発症には、リンパ球の存在が必須であるが、リンパ球の異常が原因ではなく、上皮細胞におけるIκB-ζ遺伝子の欠損がその主要な原因であることが明らかになった。IκB-ζ遺伝子欠損の上皮細胞をもつマウスの涙腺ではアポトーシスが過剰に誘導され、このため、自己応答性のリンパ球が活性化していることが判明した。本研究成果は、ドライアイ、ドライマウスに多くの患者が苦しむシェーグレン症候群の発症機序の理解とその治療に大きく貢献すると考えられる。 一方、B細胞では、B細胞抗原受容体並びにToll-like receptorの刺激によって、IκB-ζの転写と転写後制御の双方が活性化され、IκB-ζの発現誘導が惹起されること、両者の共刺激によって、相乗的なIκB-ζの発現誘導が観察されることを明らかにした。IκB-ζ欠損マウス由来のB細胞では、刺激に伴う種々の遺伝子発現誘導の異常が観察され、この分子が、B細胞の活性制御に重要な役割を果たすことが強く示唆された。
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