近年、慢性炎症によってがんが引き起こされうる事、そしてその際転写因子NF-κBががんの増悪に深く関わっていることが示されている。本研究では、自然免疫刺激を含む多くの共通した刺激でNF-κBと同時に活性化されるInterferon Regulatory Factor (IRF)転写因子ファミリー、特にIRF5やIRF1に注目し、遺伝子欠損マウスを用いて細胞レベルの解析のみならずマウスモデル系を用いた生体レベルの解析を行なうものである。IRF5やIRF1が細胞の生存や増殖を抑制するという本研究者らのこれまでの研究結果に基づき、炎症は本来がん抑制の働きも持っているのではないか、そして炎症が持つがんに対する促進・抑制の両作用を理解する事が、病態の理解や治療に重要ではないか、と考えている。本年度はまず野性型マウス胎仔線維芽細胞を用い、NF-κBの活性をIκBα変異体(いわゆるSuper repressor IκBα)によって抑制すると、通常細胞死を抑制するLPS刺激が逆に細胞死を促進するようになる、すなわち自然免疫刺激が実際に、通常は顕在化していない細胞死促進シグナルを送っていることを示す結果を得ている。また、慢性大腸炎によって引き起こされる大腸腫瘍のマウスモデル(azoxymethaneとdextran sodium sulfate投与による)の実験条件至適化を完了した。今後遺伝子欠損マウスを用いた解析を行なって行く予定である。
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