近年、慢性炎症によってがんが引き起こされうること、そしてその際転写因子NF-κBががんの増悪に深く関わっていることが示されている。本研究では、自然免疫刺激を含む多くの共通した刺激でNF-κBと同時に活性化されるInterferon Regulatory Factor(IRF)転写因子ファミリーが、感染防御においてはNF-κBと協調する一方、がん抑制に関しては拮抗作用を持つ可能性に着目し、遺伝子欠損マウスを用いて細胞レベルの解析のみならず発がんモデル系を用いた生体レベルの解析を行なうものである。 前年度までに、細胞レベルから生体レベルに至るまで研究を展開し、自然免疫シグナルがNF-κBを介してアポトーシスを抑制する一方で、通常顕在化しない促進のシグナルをも送っていることを明らかにした。また、IRF1欠損マウスを用いて、IRF1が意外にも炎症を抑制し、また腫瘍形成も抑制することを、炎症性腸疾患由来の大腸腫瘍形成実験で示してきた。 最終年度では、生体レベルでの研究をさらに進め、発がんにおけるIRF分子の役割を解析した。IRF4とIRF8は、MyD88経路を正負に制御することで炎症に関与することが知られているが、両IRFはミエロイド系細胞の分化・増殖・機能の制御において共通活性ならびに特異活性の両方があること、そしてIRF8欠損マウスで認められる慢性骨髄性白血病様の病態が、IRF4の欠損が加わることで一層重症化することを見出した。さらに、大腸がん形成モデルマウスで認められたIRF1の炎症と腫瘍形成の抑制作用を、胃炎を経て胃がんを誘発するヘリコバクター感染マウスモデルを用いても示すことができた。以上の結果は、IRFによる腫瘍抑制を手がかりとし、がん病態の新たな理解と治療の確立に向けた基盤になると期待される。
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