活性酸素は、生体の酸化ストレスへの適応応答などにおいて重要なシグナル分子として機能することが明らかになってきた。活性酸素シグナルは、細胞内のセンサー(レセプター)蛋白質の活性化を介して、さらに下流のエフェクター分子へと伝えられると考えられているが、シグナル伝達機構の詳細は分かっていない。本研究課題では、酸化ストレスにより生成する8-nitro-cGMPなどのリガンドとそのセンサー(レセプター)蛋白質の機能制御機構を明らかにし、酸化ストレス適応応答と生体防御の分子基盤を解明するとともに、新規な酸化ストレスセンサー分子群を発見することを目的としている。これまでに、酸化ストレスセンサー蛋白質としてKeap1を同定し、8-nito-cGMPによるKeap1の翻訳後修飾(S-グアニル化)とそれに伴う転写因子Nrf2の活性化機構を明らかにした。本年度は、S-グアニル化を指標としてさらなる酸化ストレスセンサータンパク質の探索を行い、複数のS-グアニル化標的蛋白質を同定した。中でも、細胞内情報伝達における多彩な機能が知られている低分子量G蛋白質H-RaSが、8-initro-cGMPにより特定のシステイン残基にS-グアニル化を受け活性化することがわかった。さらに、各種培養細胞を用いた解析により、S-グアニル化によるH-Rasの活性化は、Raf/MEK/ERKのシグナル経路を活性化し、細胞老化に関わることも明らかになった。以上より、8-nitro-cGMPは、Keap1やH-Rasなどの酸化ストレスセンサー蛋白質のS-グアニル化を介して、活性酸素と一酸化窒素(NO)のシグナル伝達に重要な役割を果たしていることが示された。
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