平成23年度はα4GnTをコードするA4gnt遺伝子を欠損したA4gntノックアウトマウス(A4gnt KOマウス)の胃粘膜に生じる炎症の分子基盤解明を試みた。A4gnt KOマウスの胃粘膜は、5週齢で過形成、10週齢で軽度異形成、50週齢で分化型腺癌を発症することから、5週齢、10週齢、50週齢のA4gnt KOマウス(5週齢n=5;10週齢と50週齢n=6)、及び年齢を揃えた野生型マウス(5週齢n=5;10週齢と50週齢n=6)から摘出した胃粘膜のホルマリン固定パラフィン包埋標本から腺胃領域を切り出し、total RNAを抽出、逆転写後に炎症性ケモカインリガンド、炎症性サイトカイン、成長因子等の発現を定量PCR法で解析した。その結果、Cxcl1、Cc12、Cxcl5、Il-1β、Il-11、Hgf、Fgf7は、10週齢と50週齢のA4gnt KOマウスで、野生型マウスに比べて有意に増加していた。更に、Hgfは5週齢のA4gnt KOマウスでも野生型マウスに比べて有意に増加し、またGrem1は50週齢のA4gnt KOマウスで野生型マウスに比べて有意に増加していた。一方、Amh、Egf、Pthlhは逆に10週齢、50週齢のA4gnt KOマウスで野生型マウスに比べて有意に低下し、さらに前二者は5週齢のA4gnt KOマウスでも野生型マウスに比べて有意に低下していた。次に、5週齢から60週齢のA4gnt KOマウスと野生型マウスの胃粘膜における単核球、好中球浸潤の程度をスコア化した。その結果、何れも5週齢から60週齢へと週齢を重ねるにつれて有意に増加していた。更にF4/80+単球とCD31+血管内皮細胞の出現量を、5週齢と50週齢のA4gnt KOマウスと野生型マウスの胃粘膜においてカウントすると、何れも5週齢では野生型マウスに比べてA4gnt KOマウスで増加傾向があり、50週齢では有意な増加を示した。以上の結果より、A4gnt KOマウスの胃粘膜では向腫瘍性の慢性炎症が生じていることが示唆された。
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