研究概要 |
本年度は下記の6種類の軟部腫瘍についての解析を行った。 1)平滑筋肉腫:129症例および16例の転移・再発巣の平滑筋肉腫の症例についてSTAT3のSocS3以外の抑制因子、ERK1/2, PIAS3, SHP-1, -2についてウェスタンブロット法にてタンパク発現を評価し、SOCS3が主な抑制因子であることを確認した。2)滑膜肉腫:112例についてAkt, mTOR, S6, 4E-BP1のリン酸化型のタンパク量と臨床病理学的因子との相関を評価し、mTOR, 4E-BP1の活性化が予後不良因子となっていることが明らかとなった。また、29例の凍結標本においてAktkl, PIK3のmutation解析を行ったが、mutationは認めなかった。3)悪性末梢神経鞘腫瘍:135例の標本において、染色結果でAKT-mTOR系は約半数から6割の症例で、PK系は約4分の3から95%の症例で活性化していることが明らかとなった。単変量解析にて、pAKT, pmTOR, pS6RPの陽性例が有意に予後不良であった。MAPK系因子の活性化と予後との関連はみられず、本腫瘍における高悪性化には、AKT-mTOR系が関与していることが示唆された。多変量解析では、リン酸化mTOR陽性が唯一の独立した予後因子であった。細胞株6株においてmTOR阻害薬による抗腫瘍効果が実証された。 4)粘液線維肉腫:75例について、Akt, mTOR, S6RP, 4EBP1のリン酸化型のタンパクと臨床病理学的因子との相関を評価した。pAkt(65%)、pmTOR(45%)、pS6RP(41%)、p4EBP1(66%)に陽性となり、FNCLCC gradeとpmTORの発現に相関を認め(p=0.011)、腫瘍の悪性度とAKT/mTOR pathwayの活性化との相関が示唆された。5)類上皮肉腫:49症例(遠位型28例、近位型21例)について、免疫組織化学染色を用いて評価し、mTOR、S6RP、4E-BP1蛋白はいずれも高発現を認め、Akt-mTORpathwayが活性化していることが明らかになった。Aktについては、タンパク発現頻度は比較的低かったため、Aktを介さないmTORの活性化経路の存在も示唆された。予後と各タンパクとの相関は認めなかった。6)孤立性線維性腫瘍:66例についてAkt-mTOR pathway関連タンパクのリン酸化を免疫組織化学的に検討したところ50-80%においてAkt、mTOR、4E-BP1、S6RPのリン酸化が見られた。PDGFRαおよびβのリン酸化はAktのリン酸化と相関があり、腫瘍細胞のPDGF陽性とPDGFRαおよびβのリン酸化の間に相関を認めた。本腫瘍ではAkt-mTOR系が活性化しており、同系活性化の一因としてPDGFの自己分泌とそれによるPDGFRα、PDGFRβの活性化が起こっている可能性が示唆された。
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