本研究課題は、進行性多巣性白質脳症(Progressiv multifocal leukoencephalopathy : PML)の原因ウイルスであるJCウイルスのウイルス因子とウイルスが感染した宿主細胞の宿主因子の、細胞レベルにおける相互作用を明らかにし、得られた基礎的知見に基づいてJCウイルスの感染を抑制する薬剤候補を選択することを目的としている。 平成21年度はJCVのウイルス因子である早期タンパク質と後期タンパク質のそれぞれについて宿主因子との関係を生化学的、分子生物学的および免疫組織学的手法を用いて詳細に検討した。さらにその研究過程で派生した、ウイルス様粒子(Virus-like-particle : VLP)の作成技術を、新たなデバイスとして用いる研究も展開できた。 その結果、ウイルスが感染した際にウイルスの複製以前た発現する早期タンパク質が、感染細胞の宿主因子である細胞周期制御因子と相互作用して、感染細胞の細胞周期を変化させて、その結果としてウイルス自身の複製能を亢進させることを明らかにした。また、ウイルスの複製後に発現する後期タンパク質が感染後に細胞内の輸送機構を介して細胞膜に局在し、細胞膜の機能を変化させて、ウイルスの細胞外への放出を亢進させることを明らかにした。 これらのウイルス因子と宿主細胞の相互作用の結果、感染細胞内でウイルスが効率的に増殖していることが明らかとなった。以上の結果に基づいて、ウイルスの増殖を抑制する薬剤を候補として選択し、その抑制効果を確認した。
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