平成23年度は、JCウイルス(JCV)のウイルス因子が関与する宿主因子を同定すること、さらにウイルス因子と宿主因子の細胞レベルにおける相互作用を明らかにしてJCVの細胞内への侵入、細胞質から核への細胞内輸送、核内でのウイルスの転写・複製の調節、核から細胞質・細胞質から細胞膜への細胞内輸送、細胞外への放出の各過程における詳細な機序を解明することを目的とし、以下の研究を推進した。本研究はJCV後期タンパク質であり、未だにその機能に不明な点が多いagnoprotein (Agno)に着眼し、Agnoが、JCV粒子の核から細胞質・細胞質から細胞膜への細胞内輸送、細胞外への放出の各感染過程においてどのように細胞宿主に影響を与えているかを分子生物学的および細胞生物学的手法を用いて検索した。初めにYeast 2-hybrid assayを用いてAgnoに結合する宿主因子として細胞内輸送因子であるAP-3を同定した。さらにAgnoとAP-3の結合を確認すると共に、AgnoおよびAP-3の結合領域を明らかにした。次に、AP-3に結合しないAgnoの変異体を作成し、またAP-3に対するsiRNAを用いてその発現を抑制し、JCV感染に対してどのような影響を与えるかについて、以下の方法を用いて検討した。作製したAgnoの変異を有するJCVのゲノムを細胞内に導入し、また、AP-3に対するsiRNAを細胞に導入した後に、JCV粒子の細胞質から細胞膜への細胞内輸送および細胞外へのJCV粒子の放出について詳細に検討した。その結果、AgnoはAP-3に結合することにより、細胞内輸送機構を抑制することを明らかにした。さらにAgnoはAP-3と結合することにより、AP-3依存性のlysosomeへのAgno自身の輸送を抑制し、その結果として、自らは細胞膜へ輸送されていることが明らかとなった。細胞膜に輸送されたAgnoは細胞膜上でhomo-oligomerを形成し、その後viroporinとして細胞膜の透過性を促進し、JCV粒子の細胞外への放出を促進する機構を明らかにした。本研究により、これまでに不明であったJCVの細胞外放出機構が解明された。
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