ヒト多発性硬化症のモデルである実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)におけるアルファ9インテグリンの機能を主に検討した。 抗アルファ9インテグリン抗体を投与すると、EAEの臨床スコアーおよび中枢神経系における炎症細胞浸潤の低下、脱随巣の低下等、病理組織学的所見の著明な改善と共に、中枢神経系における炎症性サイトカインの遺伝子発現上昇の著明な抑制が認められ、アルファ9インテグリンが多発性硬化症の病態に重要な役割を果たしており、かつ治療の標的となりうる可能性を明らかにする事ができた。 その詳細なメカニズムの検討を行ったところ、所属リンパ節の髄洞および皮質洞リンパ管上皮に活性化アルファ9ベータ1インテグリンの発現が増強し、同部位で発現するテナーシンC(TN-C)との結合により、リンパ管上皮よりS1Pの分泌を促し、これによりリンパ節内で増加したエフェクター細胞がリンパ節より血中へと動員される事が明らかとなった。過去に抗アルファ9インテグリン抗体を投与する事で、マウスリウマチモデルの症状を改善できる事、そのメカニズムがケモカイン受容体の発現抑制とTh17細胞の産生抑制にある事を報告して来たが、今回多発性硬化症モデルでは、リウマチにおけるアルファ9インテグリンの機能とは異なる新たな機能を発見した事になり、これは、疾患病態によりアルファ9インテグリンとそのリガンドのペアーが変化し、これがアルファ9インテグリンの多様な機能の理由である事を明らかにする事ができた。したがって、多発性硬化症においては、抗アルファ9インテグリン抗体および抗TN-C抗体が、抗体医薬としての可能性を有する事を示唆する所見であり、新たな治療薬の開発に貢献する事が期待できる。
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