好塩基球の機能解析が他の細胞に比べて格段に遅れている最大の原因は、有用な解析ツールがほとんど無いことである。好塩基球とよく比較されるマスト細胞の場合には、マスト細胞を欠損するc-kit自然変異マウスが存在し、マスト細胞の機能解析に頻用されている。一方、好塩基球のみを欠損する実験動物は存在しない。細菌由来毒素あるいはその受容体を好塩基球特異的に発現させることができれば、発生工学的に好塩基球欠損マウスを作製することが可能であると考えられる。そこでまず、好塩基球に特異的に発現する遺伝子を探索・解析した結果、蛋白分解酵素の一種であるmMCP-8とmMCP-11をコードする遺伝子が候補となった。mMCP-11はマスト細胞に発現する新規セリン・プロテアーゼとして報告されていたが、特異抗体を作製して発現パターンを解析したところ、好塩基球に大量に発現しており、一部のマスト細胞にごく弱く発現していることが判明した。同時に作製したmMCP-8特異抗体を用いた解析から、mMCP-8の方はマスト細胞にはまったく発現しておらず、好塩基球特異的プロテアーゼであることが明らかとなった。そこで、mMCP-8遺伝子のプロモーター下流に緑色蛍光蛋白質(GFP)を挿入した遺伝子改変マウスを作製したところ、GFPが好塩基球に選択的に発現することが確認された。この結果を踏まえて、GFPのかわりに細菌由来毒素あるいはその受容体を好塩基球特異的に発現させたマウス遺伝子改変マウスを作製し、好塩基球の機能解析への応用を検討している。また、既に作製済みの好塩基球除去抗体を用いた実験から、好塩基球が寄生虫に対する生体防御に重要な働きをしていることがわかってきた。
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