これまで好塩基球のみを欠損するモデル動物が存在しなかったため、生体内での好塩基球機能の解析は非常に遅れていた。そこで好塩基球欠損マウス樹立を目的として、マウス好塩基球に特異的に発現するセリン・プロテアーゼmMCP-8をコードする遺伝子領域にヒト・ジフテリア毒素受容体(DTR)をコードするcDNAを挿入したノックインマウスMcpt8^<DTR>を作製した。このマウスでは当初の狙い通り、DTRの発現が好塩基球に選択的に検出され、さらにジフテリア毒素を投与することで、好塩基球のみが一過性に除去されることが明らかとなった。これまで有用とされてきた抗体による好塩基球除去法では、マスト細胞への副作用が問題となっていたが、Mcpt8^<DTR>マウスの樹立により、真の意味で好塩基球を選択的に欠損するモデル動物を用いた好塩基球の機能解析が可能となった。そこで、このMept8^<DTR>マウスを用いて、長い間未解決であった外部寄生虫マダニ(吸血ダニ)に対する生体防御における好塩基球の役割を解析した。マダニは吸血の際にさまざまな病原体をヒトや動物に伝搬する。以前の報告ではマダニ吸血部位に好塩基球の浸潤が認められないとされていたが、前年度の研究で樹立した抗mMCP-8抗体ならびに好塩基球特異的緑色蛍光色素発現マウスを用いた解析から、2度目のダニ感染時には好塩基球がダニ吸血部位に集積することが確認された。一度マダニに感染すると、2度目以降の感染ではマダニ吸血に対する抵抗性ができるが、2度目の感染前にマウスにジフテリア毒素を投与して好塩基球を除去すると、ダニに対する抵抗性が消失した。以上、以前の研究で見逃されていた「外部寄生虫に対する生体防御における好塩基球の重要な役割」を明らかにすることができた。この新たな発見は、マダニならびにマダニ媒介感染症に対するワクチン開発に役立つものと期待される。
|