研究概要 |
潰瘍性大腸炎患者では、大腸がんの発生率が正常人に比べて高いことなどから、慢性炎症反応が大腸がんの発生に関与していると考えられている。マウスに、O^<6->メチルグアニン産生誘導能のあるアゾキメタン(AOM)を投与後に、デキストラン硫酸(DSS)溶液を頻回反復飲用させると、大腸炎の発症後に、大腸にβカテニンの核内集積を認める腫瘍が多発する。このモデルで、大腸がんの発生のみならず進展過程に、TNF-αが密接に関与していることを報告した(J.Clin,Invest.,118 : 560-570, 2008)。しかし、TNF-α自体には炎症性細胞に対する走化活性が無いことから、マクロファージに対して走化活性を示すケモカインであるCCL2の、この大腸がんモデルでの役割を検討した。 CCL2に対するレセプターであるCCR2を発現しているマクロファージの浸潤とマクロファージ・血管内皮細胞・大腸がん細胞によるCCL2の発現を認めた。CCR2発現マクロファージは、サイクロオキシゲナーゼ(COX)-2を発現していた。CCR2欠損マウスでは、マクロファージの浸潤とCOX-2発現が低下し、腫瘍形成も著明に軽減した。骨髄キメラ・マウスの検討から、骨髄由来CCR2発現細胞が腫瘍形成に関与していることが明らかになったことから、CCL2はCCR2陽性でCOX-2を発現しているマクロファージの浸潤を促進し、大腸がん発症に関与していると考えられた。さらに、多発性の大腸腫瘍が発生した後に、CCL2に対する阻害作用を示すPropagermanium・7ND発現ベクターを投与すると、炎症性細胞浸潤・COX-2発現・腫瘍血管新生が抑制され、腫瘍の数・大きさが著明に減弱した。したがって、慢性炎症に伴って発生する大腸がんの発生段階のみならず、進展段階にも、CCL2が密接に関与していることが明らかになった。
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