幹細胞は、自分自身をつくりだす「自己複製能」と、機能的な分化細胞をつくりだす「分化能」を合わせもつ細胞である。本年度、我々は、以下の2つ幹細胞システムにおいて、リン酸化酵素PI3K(phosphoinositide-3 kinase)/Aktシグナルが担う機能について解析をおこなった。 1、胚性幹細胞(ES細胞;embryonic stem cell)をもちいた試験管内中胚葉分化誘導家において、Aktシグナルを活性化させると、生殖系列の最初の細胞である始原生殖細胞に似た細胞を誘導し、長期間培養条件下で維持できることを示した。しかし、成体から取り出した始原生殖細胞とは異なり、この細胞を、精巣内に移植しても精子形成を行わないことから、生殖系列への運命付けは不十分であった。また、培養条件を変えると、もとのES細胞に似た細胞へ変化したことから、この細胞は、ES細胞と始原生殖細胞の中間の"Metastable"な分化状態にあることが示された。生殖細胞は、特殊な培養条件下で、ES細胞と同等の分化多能性をもつ細胞へ「脱分化」することが知られており、この始原生殖細胞様の細胞は、生殖細胞の分化可塑性を研究する上で有用な細胞である。 2、これまでに、PI3K/Aktシグナルの活性化は、マウスや霊長類において胚性幹細胞(ES細胞)の分化多能性を支持すること、ES細胞と細胞融合したときめ体細胞核の初期化効率を上昇させること、を報告している。本年度は、Aktシグナルの活性化が、マウス線維芽細胞からiPS細胞(induced pluripotent stem cell)を誘導する効率を上昇させるという予備的な知見を得た。
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